建築一式工事とプレストレストコンクリート工事の関係
「建築一式工事」は、「総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事」と定義されています。
これは、建物全体を包括的に建設する、大規模で複雑な工事を指します。
この記事では「建築一式工事業」を、建設業者様のために説明しています。
目次
1.建設業許可(建築一式工事業)の内容
「建築一式工事」は建設業法で「総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事」と定義されます。
この定義には、単なる「建物を建てる」以上の意味合いが含まれています。
「総合的な企画、指導、調整」の部分が、建築一式工事の最も重要な本質です。
- 企画(Planning): 施主の要望や予算、土地の条件などを踏まえ、建物のコンセプト、設計、工法、工程などを初期段階で総合的に計画する能力。単に設計図通りに建てるだけでなく、時には施主に最適なプランを提案するコンサルティング能力も求められます。
- 指導(Guidance): 自社の技術者だけでなく、下請けの専門工事業者(電気工事、管工事、内装工事など)に対して、工事の品質、安全、工程、コストなどに関する具体的な指示や助言を与えること。現場全体の指揮を執ります。
- 調整(Coordination): 複数の専門工事業者間の作業スケジュール調整、使用する資材の搬入タイミングの調整、作業間の干渉防止、設計変更への対応、近隣住民への配慮など、工事全体が円滑に進むように様々な利害関係者と交渉し、調整する能力。これはプロジェクトマネジメント能力に直結します。
建築一式工事の「万能ではない」という注意点
「建築一式工事の許可があれば、どんな建築に関する工事でもできる」と誤解されがちですが、これは間違いです。
建築一式工事の許可は、あくまで「総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事」に対して与えられるものです。
内装仕上げ工事だけを請け負う場合は「内装仕上工事業」の許可が、電気工事だけを請け負う場合は「電気工事業」の許可がそれぞれ必要になります。
建築一式工事の許可を持っていても、単独の専門工事を、その専門工事の許可なしに500万円(税込)以上で請け負うことはできません。
建築一式工事の主な特徴
- 「元請け」の立場が原則
建築一式工事は、施主(発注者)から直接工事を請け負い、複数の専門工事業者を束ねて工事全体を管理・調整する元請け業者が担当するのが一般的です。
下請けとして、建築一式工事をまるごと請け負うことは、「一括下請負の禁止」という建設業法上の原則に抵触する可能性があるため、原則としてできません。 - 複数の専門工事の集合体
一つの建築物を完成させるには、基礎工事、躯体工事(鉄骨、コンクリート)、屋根工事、外壁工事、内装工事、電気設備工事、給排水設備工事など、実に様々な専門工事が必要になります。
建築一式工事は、これらの多岐にわたる専門工事を有機的に組み合わせ、全体を統括して進めるという特性があります。 - 大規模かつ複雑な工事
建築確認を必要とするような新築工事や大規模な増改築工事が、建築一式工事の典型例です。
個別の専門工事では対応が難しい規模や複雑性を持つ工事が該当します。
建築一式工事の軽微な工事の完成工事高が高い理由
「建築一式工事」における「軽微な工事」の完成工事高が、他の専門工事の「軽微な工事」よりも金額要件が高いことは、建設業法上の建築一式工事の特性に起因しています。
建設業許可が不要な「軽微な工事」の定義では、以下のようになります。
- 建築一式工事の場合
- 1件の請負代金の額が1,500万円(税込)に満たない工事
- または、延べ面積が150㎡に満たない木造住宅工事(主要構造部が木造で、延べ面積の2分の1以上を居住の用に供するものに限る)
- 建築一式工事以外の建設工事の場合
- 1件の請負代金の額が500万円(税込)に満たない工事
建築一式工事だけが、軽微とみなされる金額のハードルが高くなります。
この金額要件の違いの理由は、以下の建築一式工事の特性によるものです。
- 工事の性質と範囲の広さ
建築一式工事は、単一の専門工事ではなく、基礎、躯体、内装、設備など、複数の専門工事を総合的に企画、指導、調整して一つの建築物を完成させるという性質を持ちます。
そのため、比較的規模の小さい建物であっても、多くの専門工事が複雑に絡み合い、トータルで見るとそれなりの費用がかかるのが一般的です。 - 完成責任とプロジェクト管理の重み
建築一式工事の業者は、建物全体の完成責任を負います。
「総合的な管理・調整」という業務自体に価値があり、その手間や責任を考慮すると、他の単一の専門工事よりも、軽微とみなされる金額の基準が高くなるのは妥当であると考えられます。 - 社会的な影響と発注者保護
一定以上の規模の建築物については、許可を持つ事業者に責任を持って施工させ、発注者(特に個人住宅の施主など)を保護するという目的も含まれています。
個人が住宅を建てる際に、様々な専門業者の中から適切な業者を選ぶことは困難な場合が多いため、建築一式業者が一元的に責任を負う仕組みが社会的に求められます。 - 「木造住宅150㎡未満」の特例
「木造住宅で延べ面積が150㎡未満」という基準が別に設けられているのは、日本の住宅建築において、小規模な木造住宅の建設が非常に多く、これらの工事まで一律に1500万円未満という基準に含めると、許可業者の数が不足したり、手続きが煩雑になったりする可能性があるためです。

「建築一式工事」は、建築物を総合的に建設・管理する「司令塔」のような存在であり、その責任と役割は他の単一の専門工事とは一線を画するんだね。
2.建設業許可(建築一式工事業)とプレストレストコンクリート(PC)工事の関係
プレストレストコンクリート(PC)工事とは、従来の現場で型枠を組んでコンクリートを打設する「鉄筋コンクリート(RC)造」とは異なる、特殊なコンクリート工法です。
プレストレストコンクリートとは、「あらかじめ(Pre)応力(Stress)を与えられた(ed)コンクリート」という意味です。
コンクリートは圧縮力には非常に強い反面、引っ張る力(引張力)には弱いという弱点があります。
この弱点を克服するために、あらかじめ高強度の鋼材(PC鋼材)をコンクリートの内部に配置し、これを引っ張る力(緊張力)を与えた状態でコンクリートを固めることで、コンクリート自体に「圧縮力」を導入します。
橋梁(PC橋)、高速道路の桁、大スパンの建築物(体育館、ホール、倉庫、駐車場など)、高層ビル、タンク、原子力発電所など、高い強度、耐久性、または大空間が必要な構造物で広く採用されています。
経営事項審査では、「建築一式工事」の完成工事高を申告する際に、その内訳として「プレストレストコンクリート工事」の完成工事高を別途表示する欄が設けられています。
これは、プレストレストコンクリート工法が、高い技術力と特殊な専門知識を要する工法であり、特に橋梁や大スパン建築物など、構造物の安全性に直結する重要な技術であるためです。
公共工事の発注者は、「建物を総合的に建設できる能力(建築一式)」を評価したいニーズと、その中で「特定の高度な技術(PC工事)の実績と専門性」を評価したいニーズの両方を持っているためです。

「建築一式工事」は建物の建設全体を統括する業種として、「PC工事」は、その中の特定の高度な工法や技術として、経審上で異なるレベルで評価されるよう区分けされているんだね。