ゼロからわかる!「建築一式工事業許可」の取り方と知っておくべきポイント
建築施工管理技士として、あなたの技術と情熱をさらに大きく花開かせたい。
そうお考えなら、「建築一式工事業許可」の取得は避けて通れない大切なステップです。
この記事では、建築一式工事業許可の取得要件から見落としがちなポイントまで、あなたが知りたい情報をわかりやすく解説していきます。
1.「建築一式工事業」の範囲を明確に!作業内容と他業種との違い
建築一式工事業は、建物という大きな一つの構造物を、基礎から屋根、内装、設備まで、全体をまとめて請け負い、総合的に完成させる、非常にスケールの大きい大切なお仕事ですね。
具体的にどのような作業が含まれるのか、そして他の業種とどう違うのか、ご説明しますね。
「建設工事の内容を定める告示」に基づく建築一式工事業の作業内容
まず、「建設工事の内容を定める告示」という国のルールでは、建築一式工事業は以下のように定義されています。
- 建築一式工事
総合的な企画、指導及び調整のもとに土木工作物又は建築物を建設する工事
簡単に言うと、建物を総合的に企画し、様々な専門工事を指導・調整しながら、一つの建築物として完成させる工事全般を指します。
「建設業許可事務ガイドラインの例示」に基づく具体的な作業内容
次に、「建設業許可事務ガイドライン」という、許可を出す側の行政が参考にしている資料には、もっと具体的な例が載っています。
これらの例を一つずつ詳しく見ていきましょう。
- 建築一式工事
- 建築確認を要する新築工事
- これは、新たに建物を建てる際に、建築基準法に基づいて「建築確認」が必要となる規模の工事を指します。一般の戸建住宅はもちろん、マンション、オフィスビル、商業施設、工場など、多種多様な建物の新築が含まれます。
- 具体的な作業としては、基礎工事、躯体(くたい)工事(柱、梁、壁など主要構造部の構築)、屋根工事、外壁工事、内装工事、設備工事(電気、給排水、空調など)など、建物完成までに必要なほぼ全ての工程を総合的にマネジメントし、自社で施工するか、専門業者に発注して指導・調整を行うことが主な業務となります。
- 増改築工事(大規模なもの)
- 既存の建物を大きく増築したり、大規模な改修を行ったりする工事です。単なる内装の変更や設備の交換ではなく、建物の構造に関わる部分の変更や、規模が大きく変わるような工事が該当します。こちらも新築工事と同様に、様々な専門工事を総合的に管理・調整する能力が求められます。
- 建築確認を要する新築工事
- ここが重要です!
建築一式工事業の許可は、あくまで「総合的な企画、指導及び調整」を行うためのものであり、個別の専門工事(例:内装工事だけ、電気工事だけ)を単独で請け負うことはできません。 例えば、「内装の改修工事」だけを請け負う場合は、内装仕上工事業の許可が必要になります。建築一式工事の許可は、あくまで「建物全体を建てる」場合に必要な許可だということをご理解ください。
間違いやすい他の業種との切り分け
ここがとても大切なポイントです。
建築一式工事業と間違えやすい業種がいくつかありますので、しっかり区別できるようにしましょう。
- 土木一式工事との違い
- 土木一式工事は、道路、橋、ダム、河川、造成など、「土地そのものや土地に付随する大規模な工作物」 を総合的に建設する工事です。
- 建築一式工事業は、「土地の上に建設される建物」 を総合的に建設する工事です。
- 切り分けのポイント:「土地」が主役でインフラ整備に関わるのが土木、「建物」が主役で生活や活動の場を造るのが建築、と明確に区別されます。
- 専門工事(大工、電気、管、内装仕上など)との違い
- 建築一式工事業は、これらの専門工事を組み合わせて一つの建物を作り上げることを目的としています。自社で全てを施工するわけではなく、多くの場合は各専門工事は専門業者に発注します。
- 建築一式工事業の許可だけでは、単体で特定の専門工事を請け負うことはできません。 例えば、住宅の電気工事だけを請け負う場合は、別途「電気工事業」の許可が必要です。
- 切り分けのポイント: 「建物全体を総合的に請け負う」のが建築一式工事、「建物の一部である特定の専門工事を単体で請け負う」のが各専門工事です。
ただし、建築一式工事業の許可を持っていれば、請け負った建築一式工事の中に含まれる、一部の専門工事を自社で行うことは可能です(その専門工事に関する実務経験や技術者要件がなくても可)。しかし、それはあくまで「一式工事の一部」としてです。
- 切り分けのポイント: 「建物全体を総合的に請け負う」のが建築一式工事、「建物の一部である特定の専門工事を単体で請け負う」のが各専門工事です。
- リフォーム業との違い
- 「リフォーム」という言葉は幅広い意味で使われますが、建設業法上の許可区分としては「リフォーム工事業」というものは存在しません。
- 小規模なリフォーム(例えば、壁紙の張り替え、水回りの交換など)であれば、そもそも建設業許可が不要な場合もあります(請負金額500万円未満の場合)。
- 大規模な増改築や、建物の構造に関わるようなリフォーム工事で、請負金額が500万円以上になる場合は、その工事内容に応じて「建築一式工事」または「大工工事」「内装仕上工事」「管工事」などの個別の専門工事の許可が必要になります。
- 切り分けのポイント: 大規模なリフォームで建物の全体的な計画や構造に影響を与える場合は建築一式工事の範囲となり得ますが、単体の専門工事として行う場合は、その専門工事の許可が必要です。
2.「建築一式工事業」で一般建設業許可を取得するための要件や注意点
ここからは、実際に許可を取得するための大切な要件について、最新の情報も踏まえてご説明しますね。
以前よりも緩和された部分もありますので、ぜひ前向きにご検討ください。
建設業許可の5つの基本要件
一般建設業許可を取得するためには、大きく分けて以下の5つの要件を満たす必要があります。
- 経営業務の管理責任者等
- 営業所ごとに置く専任の技術者(旧:専任技術者)
- 財産的基礎又は金銭的信用
- 欠格要件に該当しないこと
- 誠実性
一つずつ、分かりやすくご説明しますね。
1.経営業務の管理責任者等
以前は「経営業務の管理責任者(通称:経管)」という、かなり厳しい要件がありましたが、令和2年10月1日からは「経営業務の管理責任者等」という新しい要件に緩和されました。
これは、経営経験のある方がいなくても、経験のある方を補佐する体制が整っていれば許可が取れるようになったということです。
具体的には、以下のいずれかに該当する必要があります。
- (A)経営業務の管理責任者としての経験を持つ方
- 建設業に関し5年以上経営業務の管理責任者としての経験を有する者
- 建設業に関し5年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る)として経営業務を管理した経験を有する者
- 建設業に関し6年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者として経営業務の管理責任者を補佐する業務に従事した経験を有する者
- (B)適切な経営体制が構築されている方
- 建設業に関し、2年以上役員等としての経験を有し、かつ、5年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者(財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る。)としての経験を有する者
- 5年以上役員等としての経験を有し、かつ、建設業に関し、2年以上役員等としての経験を有する者
さらに、以下を有するものを置く必要があります。- 申請を行う会社で、建設業の財務管理について役員等に次ぐ職制上の地位の経験を5年以上有する者
- 申請を行う会社で、建設業の労務管理について役員等に次ぐ職制上の地位の経験を5年以上有する者
- 申請を行う会社で、建設業の業務運営について役員等に次ぐ職制上の地位の経験を5年以上有する者
ここがポイント:- 以前のように社長さんや役員の方が必ずしも長年の建設業経営経験を持っている必要がなくなりました。経験豊富なナンバー2の方や、会社の財務・労務をしっかりと管理できる方がいれば、許可取得の道が開ける可能性が高まりました。
- 常勤役員等は、原則としてその会社の役員や個人事業主でなければなりません。
- 経験を証明する書類(確定申告書、工事請負契約書など)が必要になりますので、日ごろからきちんと保管しておくことが大切です。
2.営業所ごとに置く専任の技術者(旧:専任技術者)
以前は「専任技術者」と呼ばれていましたが、要件の本質は変わりません。
各営業所に、その業種に関する専門知識と経験を持った技術者(「営業所技術者」と呼ぶこともあります)を常勤で配置する必要があります。
建築一式工事業の場合、以下のいずれかの要件を満たす方が必要です。
- (A)国家資格を持っている方
- 建設業法「技術検定」:合格証明書
- 一級建築施工管理技士
- 二級建築施工管理技士(建築)
- 建築士法「建築士試験」:免許証
- 一級、二級建築士
- 建設業法「技術検定」:合格証明書
- (B)実務経験が豊富な方
- 建築一式工事業に関する実務経験が10年以上ある方
- 指定学科(建築学、都市工学)を卒業している場合、経験年数が短縮されます。
- 大学・高専卒業:3年以上
- 高校卒業:5年以上
ここがポイント:- 実務経験10年というのは、個人事業主としての経験も含まれます。
- 経験を証明するためには、工事請負契約書、請求書、入金確認ができる通帳のコピーなど、具体的な証拠書類が必要になります。曖昧な記憶ではなく、客観的に証明できるものを用意しましょう。
- 専任性について: 営業所技術者は、その営業所に常勤している必要があります。他の会社に籍を置いていたり、他の事業を兼業していたりする場合は認められません。
3.財産的基礎又は金銭的信用
会社にお金がきちんとあるか、信用があるか、という要件です。
一般建設業許可の場合は、以下のいずれかを満たす必要があります。
- 自己資本が500万円以上あること
直前の決算書(貸借対照表)の「純資産の額」が500万円以上であればOKです。 - 500万円以上の資金を調達する能力があること
預金残高証明書などで500万円以上の残高を証明できればOKです。申請日直前の残高証明書が必要です。 - 許可申請直前の過去5年間、継続して建設業の許可を受けて営業した実績があること
すでに許可をお持ちで更新される方などはこちらの要件でクリアできます。
ここがポイント:- 「500万円以上の資金を調達する能力」は、申請時に一時的に預金残高を増やして証明することも可能です。ただし、一時的な増額は、将来の経営に影響が出ないよう、慎重に検討しましょう。
4.欠格要件に該当しないこと
建設業の許可を取り消されたり、法律に違反したりしたことがないか、という要件です。
具体的には、以下のような事項に該当しないことが必要です。
- 成年被後見人、被保佐人、破産者で復権を得ない者
- 不正な手段で許可を受けた、または営業停止処分に違反したことにより許可を取り消されてから5年が経過していない者
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年が経過していない者
- 建設業法、建築基準法、宅地建物取引業法などの特定法令に違反して罰金刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年が経過していない者
- 暴力団員、または暴力団員でなくなった日から5年が経過していない者
- 未成年者で、その法定代理人が上記のいずれかに該当する者
ここがポイント:- 役員全員、政令で定める使用人(支店長など)、総株主の議決権の5%以上を有する個人株主、個人事業主本人などが対象となります。
5.誠実性
請負契約の締結や履行において、不正または不誠実な行為をするおそれがないこと、という要件です。
- 具体的には、契約内容を故意に履行しなかったり、請負代金をごまかしたり、他社を欺いたりするような行為がないことが求められます。
- 過去に建設業法違反などがあった場合、誠実性が認められないことがあります。
社会保険について
建設業許可の取得には、社会保険(健康保険、厚生年金保険)への加入が必須です。
- 法人であれば、従業員の有無にかかわらず、社長さん一人でも加入義務があります。
- 個人事業主の場合も、従業員を5人以上雇用していれば加入義務があります。
- 雇用保険も、従業員を雇用していれば加入義務があります。
ここがポイント:- 未加入の場合は、許可申請前に加入手続きを済ませておく必要があります。これは、建設業界全体の健全化を目指す国の動きとして、非常に重視されています。
その他、許可取得に向けた注意点
- 申請書類の準備: 必要書類は非常に多く、複雑です。ご自身で準備される場合は、時間と労力がかかります。
- 実務経験の証明: 工事請負契約書、注文書、請求書、入金確認ができる通帳のコピーなど、具体的な証拠書類を漏れなく揃えることが重要です。
- 営業所の確認: 営業所がきちんと機能しているか(独立したスペースがあるか、看板があるかなど)も確認されます。バーチャルオフィスなどは認められません。
- 経営業務の管理責任者等と営業所技術者の兼任: 要件を満たせば、同一人物が両方を兼ねることも可能です。ただし、その人が実態としてそれぞれの業務を遂行できる状況にある必要があります。
- 役員変更登記など: 許可申請前に役員や商号変更などが必要な場合は、事前に済ませておく必要があります。
建築一式工事業の許可取得は、決して簡単な道のりではありません。
許可取得はゴールではなく、新たなスタートラインです。
この情報が、あなたの事業の発展に少しでも貢献できれば幸いです。

