会社合併時の経営事項審査
通常の経営事項審査は、決算日を審査基準日として行われます。
しかし、合併といった組織再編が行われた場合、次の決算日を待っていては、再編後の新しい企業の実態が経審に反映されるまでに時間がかかってしまいます。
組織再編後においても、会社の実態に即した評価を早期に受けるために設けられたのが「特殊経審」であり、合併の場合には「合併時経審」と呼ばれます。
この記事では『経営事項審査』を受けたい建設業者様のために、「合併時経審」について解説しています。
1.合併の種類
合併には主に以下の2種類があります。
- 吸収合併
一方の会社が他の会社を吸収し、吸収される側の会社は消滅します。
吸収する側の会社(存続会社)が、吸収される側の会社(消滅会社)の全ての権利義務を承継します。
建設業では、許認可や免許をそのまま引き継げるため、実務上多く利用されます。
- 新設合併
複数の会社がすべて消滅し、新たに設立された会社が消滅した会社の全ての権利義務を承継します。
ただし、登録免許税が高くなる、許認可を承継できない、資産の名義変更コストが高いなどの問題があるため、実務で利用されることは稀です。

建設業の合併では、通常の会社法上の手続きに加えて、建設業法上の特別な手続きが必要となります。
- 合併契約の締結
合併当事会社間で合併契約を締結します。 - 株主総会での承認
原則として、各社の株主総会で合併契約の承認を得ます。 - 債権者保護手続き
債権者に対し、合併の事実を通知し、異議申し立ての機会を与えます。 - 建設業許可の合併認可申請
令和2年10月1日より、建設業許可の合併に関する制度が新設されました。
合併を行う場合は、あらかじめ事前の認可を受けることで、空白期間なく合併存続法人が合併消滅法人における建設業者としての地位を承継できるようになりました。
この認可には、存続会社が建設業の許可要件を満たしていることが必要です。 - 合併登記
法務局で合併の登記を行います。
これにより、合併の効力が発生します。 - 廃業届・変更届の提出
消滅会社は合併期日以降30日以内に廃業届を提出し、存続会社は必要な変更届を提出します。

建設業における合併は、企業が成長戦略を実現したり、経営課題を解決したりするための重要な手段だね。
2.合併時経審の主な特徴
合併時経審では、合併後の新しい実態を反映させるため、いくつかの評価項目において特例的な算定方法が適用されます。
- 審査基準日
通常の経審では決算日が審査基準日となりますが、合併時経審では原則として合併期日が審査基準日となります。- 吸収合併 ⇒ 合併期日
- 新設合併 ⇒ 申請会社の合併登記の日
- 完成工事高(X1)
審査基準日の翌日の直前2年または直前3年の、存続会社と消滅会社の完成工事高を合計した額で審査されます。
合併によって、これまで別々の会社で実績を積んできた完成工事高を合算できるため、総合評定値が向上する大きな要因となります。 - 技術職員数(Z)
審査基準日における、存続会社と消滅会社の技術職員数を合算して審査されます。
恒常的な雇用関係(6ヶ月を超える常用雇用)の有無については、消滅会社における雇用期間も通算して審査されます。
合併によって、不足していた技術者を補完できるメリットが大きくなります。 - 自己資本額、利払前税引前償却前利益(Y)
審査基準日時点の修正財務諸表(存続会社と消滅会社の財務諸表を合算し、科目間で相殺等を行ったもの)に基づいて審査されます。 - 建設業の営業継続の状況(W)
- 吸収合併 ⇒ 存続会社の建設業の営業年数が引き継がれます。
- 新設合併 ⇒ 消滅会社の建設業の営業年数の算術平均に、新設会社の営業年数を加えたものとなります。
- その他の項目
法令遵守の状況、監査の受審状況などは、審査基準日における存続会社の状況で審査されるのが一般的です。
合併時経審を受けるか否かは原則として任意です。
合併により拡大した企業規模をすぐに反映させて公共工事の受注機会を増やしたい場合や、消滅会社の入札参加資格を引き継ぎたい場合には、受けることが推奨されます。

合併時経審では、専門的な知識を要するため、必ず事前に審査を行う行政庁に相談し、必要な書類や手続きを確認することが不可欠です。
3.合併時経審の注意点
合併時経審(特殊経審)は、通常の経営事項審査とは異なる特別な手続きや注意点があります。特に以下の点に留意する必要があります。
- 事前相談の徹底
最も重要な注意点です。
合併時経審は、一般的な経審とは必要書類や審査の考え方が異なるため、必ず事前に審査を行う行政庁(各都道府県の建設業許可担当部署や国土交通省地方整備局など)に相談し、必要な書類や手続きを詳細に確認する必要があります。- 提出書類の確認
通常の経審で必要な書類に加え、合併契約書、修正財務諸表、修正財務諸表精算表、税理士・公認会計士による適正証明書など、追加で多くの書類が必要になります。
これらの書類の形式や記載内容についても、行政庁によって独自の要件がある場合があります。 - 審査基準日の確認
原則として合併期日(吸収合併の効力発生日、新設合併の設立登記日)が審査基準日となりますが、例外的なケースや、直前の経審の受審状況によっては異なる場合があります。 - スケジュール調整
事前相談から書類準備、申請、審査、結果通知までの期間を考慮し、公共工事の入札参加資格申請に間に合うように綿密なスケジュールを立てる必要があります。
- 提出書類の確認
- 財務諸表の作成と適正証明
- 修正財務諸表の作成
合併時経審では、存続会社と消滅会社の財務諸表を合算し、内部取引を相殺した「修正財務諸表」を作成する必要があります。
れは会計処理上非常に複雑な作業であり、専門的な知識が求められます。 - 税理士・公認会計士による証明
作成した修正財務諸表は、税理士または公認会計士による「適正証明書」が必要です。
これは、作成された財務諸表が公正かつ適正であることを第三者が証明するものであり、その責任も伴うため、信頼できる専門家への依頼が不可欠です。
- 修正財務諸表の作成
- 完成工事高の算定
- 合算の対象期間
完成工事高(X1)は、原則として審査基準日の翌日の直前2年または直前3年の、存続会社と消滅会社の完成工事高を合計した額で審査されます。
これにより、合併によって大幅に完成工事高が積み増しされ、総合評定値の向上に寄与します。 - 証明資料
合算する完成工事高についても、それぞれの会社の工事請負契約書や注文書など、実績を証明する資料が求められます。
- 合算の対象期間
- 技術職員数の算定
- 合算と雇用関係の継続
技術職員数(Z)も、審査基準日における存続会社と消滅会社の技術職員数を合算して審査されます。
特に、恒常的な雇用関係(6ヶ月を超える常用雇用)の有無については、消滅会社における雇用期間も通算して審査されるため、その証明資料を準備しておく必要があります。 - 有資格者の確認
合併によって有資格者が増えることはメリットですが、各技術者が担当できる工種や、営業所技術者等の要件を満たしているかなどを改めて確認する必要があります。
- 合算と雇用関係の継続
- 建設業許可の承継との関連
- 令和2年10月1日施行の改正
令和2年10月1日施行の改正建設業法により、合併を行う場合はあらかじめ事前の認可を受けることで、合併存続法人が合併消滅法人における建設業者としての地位を空白期間なく承継できるようになりました。 - 経審との連携
許可の承継認可と合併時経審は別々の手続きですが、密接に関連しています。
許可の空白期間を生じさせず、かつ合併後の企業の実力を速やかに経審に反映させるためには、これらの手続きを並行して進め、スケジュールを調整することが非常に重要です。 - 特定建設業・一般建設業の区分
合併前の会社間で特定建設業と一般建設業の許可区分が異なる場合、承継後の許可区分や経審の取り扱いに複雑な問題が生じる可能性があります。
これも行政庁に事前相談が必要です。
- 令和2年10月1日施行の改正
- 全ての業種での審査
もし合併直前経審受審後に合併時経審を受ける場合、存続会社が公共工事を請け負う可能性のある全ての業種について審査を受ける必要があります。
特定の業種のみを選択して受けることはできません。
これは、時点の異なる評価が併存することを避けるための措置です。

「合併時経審」の手続きは複雑であり、法務・税務・許認可に関する専門知識が求められます。