「うっかり」じゃ済まされない!X1点ダウンにつながる完成工事高計上の落とし穴
建設業を営む皆様、経営事項審査(経審)は会社の評価を左右する重要なものですよね。
その中でも、完成工事高の計上は特に注意が必要です。
「うっかり」ミスで評点が下がってしまうと、思わぬ形で経営に影響が出てしまうことも。
今回は、完成工事高計上の落とし穴とその対策、さらに評点アップのコツまで、詳しくご紹介します。
1.完成工事高計上の基本をおさらい
なぜ完成工事高が重要なのか?
完成工事高は、会社の規模や施工能力を示す重要な指標です。
経審では、この完成工事高がX1(完成工事高評点)として評価され、会社の総合評定値(P点)に大きく影響します。
適切な完成工事高を計上することで、より高い評点を得られ、結果として公共工事の受注機会の増加など、経営上有利に働くことになります。
「完成工事高」と「売上高」の違い
「売上高」と聞くと、会社全体の売上をイメージされるかもしれませんが、経審における「完成工事高」は、建設工事の完成に伴い引き渡した工事の請負代金の額を指します。
建設業以外の事業(例えば不動産賃貸業や物品販売業など)による売上は、完成工事高には含まれませんので注意が必要です。
2.「うっかり」では済まされない!完成工事高計上の落とし穴
- 工事の未完成なのに計上してしまうケース
まだ工事が完成しておらず、発注者への引き渡しが済んでいない工事の代金を完成工事高として計上してしまうケースです。
これは虚偽申請と見なされる可能性があり、後述する行政庁の確認によって発覚すると、評点ダウンや最悪の場合、建設業許可の取り消しにも繋がりかねません。
- 建設工事以外の売上を計上してしまうケース
前述の通り、建設業以外の事業による売上を誤って完成工事高に含めてしまうケースです。
例えば、自社で施工した建物を販売した場合の土地代や、建設資材の販売のみで施工を伴わない場合などが挙げられます。
これらの売上は完成工事高には含まれません。
- 消費税の扱いを間違えてしまうケース
完成工事高は、消費税抜きの金額で計上するのが原則です。
消費税込みの金額で計上してしまうと、実際の完成工事高よりも多く計上されることになり、過大申告と見なされる可能性があります。
3.完成工事高の虚偽申請防止のために行政庁が確認している方法
行政庁は、完成工事高の虚偽申請を防ぐため、様々な方法で厳しくチェックしています。
- 決算書との照合: 提出された財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)と完成工事高の額を照合し、整合性を確認します。
- 法人税申告書との照合: 法人税の申告書に記載された売上高と完成工事高を比較し、矛盾がないか確認します。特に、「工事進行基準」を採用している場合など、会計処理によってはズレが生じることもあるため、注意が必要です。
- 工事台帳・契約書等の確認: 抜き打ち検査や疑義がある場合に、個別の工事台帳、請負契約書、請求書、入金記録などを提示するよう求められることがあります。これにより、実際に工事が行われ、完成・引き渡しがされたか、請負代金が適正に計上されているかを確認します。
- 実地調査: 必要に応じて、実際に会社を訪問し、帳簿や書類の確認、関係者からの聞き取り調査などを行うこともあります。
- 建設業許可台帳との突合: 過去の申請内容や許可業種との整合性も確認されます。例えば、申請している業種と関連性の薄い工事の完成工事高が計上されている場合など、詳細な確認が入ることがあります。
完成工事高が課税標準額を上回っている場合、完成工事高を水増しする粉飾決算の疑いを持たれる可能性があるということです。
完成工事高が課税標準額を上回っている場合の例
- 完成工事高を税込みで処理していた
- 不動産売買等の収入を完成工事高に含んでいた
- 修正後の消費税確定申告書を提示していなかった
完成工事高が課税標準額を下回っている場合の例
- 兼業の売上がある
- 雑収入がある
これらの確認により、虚偽申請が発覚した場合は、経審のやり直し命令、評点の引き下げ、さらには指名停止や建設業許可の取り消しといった厳しい処分が下される可能性がありますので、くれぐれもご注意ください。
4.評点アップのための具体的な方法
- 直前2年と3年の平均完成工事高の選択
経審の完成工事高の評点(X1)は、直前2年間の平均完成工事高か、または直前3年間の平均完成工事高のどちらか有利な方を選択して算出することができます。- 直前2年間平均: 短期間で急成長している会社や、直前の期に大きな工事が重なった場合などに有利になることがあります。
- 直前3年間平均: 過去に大きな工事の実績があり、直近の2年間だけでは十分に評価されない場合や、単年度の業績変動が大きい場合に安定した評価を得やすいです。
ご自身の会社の過去の完成工事高を振り返り、どちらの期間で算出した方がより高い評点になるかをシミュレーションして選択することが重要です。
- 業種間振替の活用
経審では、原則として許可を受けている業種ごとの完成工事高を計上しますが、「業種間振替」という制度を活用することで、評点を有利にできる場合があります。
これは、ある業種で計上した完成工事高を、別の関連する業種に振り替えて計上することを指します。
例えば、電気工事業と電気通信工事業の両方の許可を持っている会社で、電気通信工事の完成工事高が少ない場合、電気工事の一部を電気通信工事に振り替えることで、電気通信工事業の完成工事高評点を上げることが可能になる場合があります。
ただし、業種間振替には厳格なルールがあります。- 関連性の高い業種であること: 振り替える業種と振り替えられる業種が、施工内容的に密接な関連性を持っている必要があります。例えば、土木工事を電気工事に振り替えるなど、関連性の低い業種への振替は認められません。
- 実態に即していること: 振り替える完成工事高が、実質的に振り替え先の業種の工事内容と判断できるものである必要があります。
- 全体の完成工事高は変わらない: あくまで振り分けを変えるだけであり、会社全体の完成工事高が増えるわけではありません。
5.完成工事高評点X1の算出方法
完成工事高評点X1は、以下の流れで算出されます。
- 年間の平均完成工事高を算出: 直前2年間または3年間の完成工事高を合計し、その年数で割って平均完成工事高を算出します。
- 業種別年間平均完成工事高に調整: 申請する建設業の種類(業種)ごとに、上記の平均完成工事高を割り振ります。この際、業種間振替も考慮に入れます。
- 完成工事高評点X1算出テーブルに当てはめる: 各業種ごとに割り振られた年間平均完成工事高を、国土交通大臣が定める「完成工事高評点X1算出テーブル」に当てはめて、それぞれの業種のX1評点を算出します。このテーブルは、完成工事高の金額に応じて定められた点数に換算するもので、金額が大きいほど評点も高くなります。
- 総合評価: 最終的に、許可業種ごとの完成工事高評点(X1)の合計値が算出されます。
ポイント:- 評点テーブルは公開されており、ご自身で確認することができます。
- 完成工事高が一定の金額を境に評点が大きく変わるポイント(閾値)があるため、わずかな完成工事高の増減が評点に大きく影響することもあります。
完成工事高の計上は、経審の評点を大きく左右する重要な項目です。
「うっかり」ミスを防ぎ、適切な評点を得るためには、正確な知識と細やかな確認が不可欠です。
この情報が、あなたの事業の発展に少しでも貢献できれば幸いです。

