経営事項審査に必要な『経営状況分析』を解説
経営事項審査とは、公共工事の受注をめざす建設業者に義務づけられている審査です。
その中の評価項目の一つとして、財務状況を確認する「経営状況分析」(Y点)があります。
国土交通省の登録を受けた経営状況分析機関に、必要書類を揃えて「経営状況分析」(Y点)を求める必要があります。
この記事では『経営事項審査』を受けたい建設業者様のために、「経営状況分析」について解説しています。
目次
1.経営状況分析の手続き
登録経営状況分析機関の種類
「経営状況分析」を申請するには、国土交通省の登録を受けた登録経営状況分析機関によって行われます。
どの分析機関に依頼しても構いません。
手数料はおおむね1万円程度で、発送までの期間や手続き方法等によって、金額が変わってきます。
登録番号 | 機関の名称 |
---|---|
1 | (一財)建設業情報管理センター |
2 | (株)マネージメント・データ・リサーチ |
4 | ワイズ公共データシステム(株) |
5 | (株)九州経営情報分析センター |
7 | (株)北海道経営情報センター |
8 | (株)ネットコア |
9 | (株)経営状況分析センター |
10 | 経営状況分析センター西日本(株) |
11 | (株)日本建設業経営分析センター |
22 | (株)建設業経営情報分析センター |
経営状況分析に必要な書類
経営状況分析は、建設会社の経営状況についての分析を行います。
そのため必要な書類は、会社の経営状況に関するものになります。
- 経営状況分析申請書
- 建設業財務諸表(初めての分析機関に申請する場合は3期分必要)
- 「減価償却実施額」を確認できる書類(当期・前期)
法人:税務申告書別表16(1)及び同16(2)等の写し
個人:青色申告決算書の写し又は収支内訳書一式(白色申告用)の写し
※必要に応じその他減価償却実施額が確認できる書類の写し - 建設業許可通知書の写し又は建設業許可証明書の写し
- 兼業事業売上原価報告書(損益計算書に「兼業事業売上原価」が計上されている場合に必要)
- 換算報告書(決算期変更等で当期決算が12ヶ月に満たない場合に必要)
大まかには以上ですが、代理人申請には委任状が必要ですし、詳細は各登録経営状況分析機関のホームページを確認してくださいね。
2.建設業財務諸表は「税抜き」で
経営事項審査では、税抜きで作成するのが基本的なルールになっています。
ただし免税事業者は、消費税込み可とされています。
詳しくは、各許可行政庁にご確認ください。
そのため建設業財務諸表も課税事業者は、「税抜き」で作成する必要があります。
そして流動負債の「未払消費税」または流動資産の「未収消費税」を必ず計上しなければなりません。
決算書から建設業財務諸表を作成する必要がありますが、税理士に消費税抜きの決算書を用意してもらっているのが楽です。
消費税込か消費税抜の見分け方
- 注記表で確認する
税務申告の決算書にある注記表を確認するのが、最も楽な簡単な確認方法です。
しかし注記表の記載に間違いないことが前提となります。 - 税理士に確認する
注記表がない場合は税理士に確認するのが、最も確実な確認方法です。 - 法人事業概況説明書で確認する
法人税の確定申告書に、『法人事業概況説明書』の書類があります。
その中の「8経理の状況」という欄で、判断することができます。 - 消費税の確定申告書で確認する
消費税の確定申告書に、「①課税標準額」という欄があります。
売上の他に営業外収益等を含んだ収益の消費税抜きの金額です。
経営事項審査で重要な金額でして、「売上高」と「課税標準額」を比較して判断します。
課税標準額≧売上高 → 税抜き
課税標準額<売上高 → 非課税売上がない限り税込み
工事進行基準と消費税は引渡時を採用している場合は、消費税抜きでも「課税標準額<売上高」となるので注意が必要だ。
また免税事業者が期中にインボイス登録をした場合、登録から期末までの売上が「課税標準額」の欄に記載されるので、課税標準額では判断することはできないよ。
消費税込 → 消費税抜に変換する方法
- 損益計算書(完成工事原価報告書および兼業事業売上原価報告書を含む)の消費税額を計算する。
消費税の課税取引かどうかについては、個人事業向けですが、国税庁ホームページの「消費税課税取引の判定表」を参考にしてください。 - 「預かった消費税」と「支払った消費税」の差額を計算する。
預かった消費税が大きい場合は、営業外収益(消費税差額)として計上する。
支払った消費税が大きい場合は、営業外費用として計上する。 - 決算書が現金主義(貸借対照表に未払消費税が計上されていない)の場合、消費税確定申告書の項番㉖「消費税及び地方消費税の合計税額」を貸借対照表の「未払消費税」に計上し、損益計算書の「租税公課」にも計上して発生主義に切り替える。
そして消費税額を「租税公課」に含めたため、租税公課と営業外収益を相殺する。
企業会計原則で、「すべての費用および収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられるように処理しなければならない」とされています。
要するに「現金主義」ではなく、「発生主義」を原則とする会計を求められています。
現金主義は、お金が実際に動いた時に記録する方法です。
発生主義は、取引が発生した時点で、収入や支出を記録する方法です。
税金を計算するのは、決算を締めたあとになります。
しかし決算を締めた後すぐに利益が確定し、当期分の税金が発生します。
その当期分の発生税額を、建設業財務諸表に載せる必要があります。
損益計算書に「法人税、住民税及び事業税」、貸借対照表に「未払法人税等」が計上されていない場合に修正処理が必要となります。
未払法人税が計上されていない修正処理
- 決算書から損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」、貸借対照表の「未払法人税等」のゼロを確認し、税金を発生させる処理が必要であることを確認する。
- 『租税公課の納付状況等に関する明細書 別表五(二)』の⑥欄「期末現在未納税額」を、貸借対照表の「未払法人税等」に計上する。
- 『租税公課の納付状況等に関する明細書 別表五(二)』の②欄「当期発生税額」を、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に計上する。
- 『租税公課の納付状況等に関する明細書 別表五(二)』の⑤欄「損金経理による納付」は、過年度分の法人税等が「租税公課」で費用処理としていると考えられるため、「租税公課」からマイナスする。マイナスにした過年度分の法人税等を、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に計上する。
税務上は現金主義でも発生主義でも認められてるけど、建設業財務諸表は発生主義で統一されているんだね。
もう1点、税金で気を付けるべきことがあります。
決算書に「仮払税金」を計上している場合です。
翌期に還付される税金を「仮払税金」として計上しているのであれば、「未収還付法人税等」と科目名を変更するだけで良いです。
しかし当期発生税額として費用処理すべき税金を、中間納付分として流動資産に残している場合です。
その場合は、貸借対照表の「仮払税金」をゼロにし、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」へ計上します。
その分、「当期純利益」もマイナスになります。
3.兼業事業売上原価報告書(様式第25号の9)の作成
兼業事業売上がない場合は作成する必要はないのですが、工事以外の兼業事業売上がある場合は『兼業事業売上原価報告書』を作成する必要があります。
建設業業種区分に属さない「除雪、除草、草刈、剪定、点検」等は、兼業事業として計上する必要があります。
『兼業事業売上原価報告書』の書き方例は、以下のようになります。
- 期首商品(製品)たな卸高
期首に保有している商品・製品在庫の金額を記載します。
前期の『兼業事業売上原価報告書』の「期末商品(製品)たな卸高」と一致します。 - 当期商品仕入高
販売目的で当期の1年間に、他社から購入した商品の合計金額を記載します。 - 当期製品製造原価
期中に完成した製品・提供したサービスの原価の合計金額を記載します。
その内訳を「(当期製品製造原価の内訳)」欄に記載します。 - 期末商品(製品)たな卸高
期末時点で売れ残っている商品・製品在庫の金額を記載します。
4.決算変更届と経営状況分析どちらが先?
経営事項審査を受ける前に、決算変更届の提出と、経営状況分析の申請を行う必要があります。
では決算変更届の提出と、経営状況分析の申請、どちらを先に行う方が良いのでしょうか。
決算変更届も経営状況分析、どちらも建設業法用の財務諸表を提出しなければなりません。
国土交通省の登録を受けた経営状況分析機関は、申請された財務諸表を確認します。
その財務諸表の修正や、訂正を求める場合があります。
そのため実務上では、経営状況分析の申請を先にされたほうが、先にチェックしてもらえます。
決算変更届を先に、許可行政庁に提出したあと、経営状況分析機関で訂正を求められた場合、許可行政庁に提出した決算変更届の訂正が必要となります。
経営状況分析機関に先に申請し訂正を求められたら、修正した決算変更届を許可行政庁に提出するだけで済みます。
会社の都合で、先に決算変更届を提出しても間違いではありません。
実務上の手間を考えた流れになります。
経営状況分析に申請後、指定日数で『経営状況分析結果通知書』が届きます。
経営事項審査の申請時に、『経営状況分析結果通知書』の原本も必要となります。