工事経歴書と経審の関係性:高得点を目指す戦略的作成
公共工事の入札参加を目指す建設業者様にとって、経営事項審査(経審)は避けて通れない重要なプロセスです。
そして、その経審の評価を大きく左右する「要」となるのが、工事経歴書にほかなりません。
「工事経歴書は単なる実績の羅列でしょ?」と思われがちですが、実は違います。
工事経歴書は、ただ過去の工事を記録するだけでなく、経審でより高い評価(高得点)を目指すための戦略的なツールとして活用できるのです。
今回は、工事経歴書と経審の密接な関係性を深掘りし、高得点を狙うための作成戦略を優しく解説していきますね。
1.経審を受けない場合と受ける場合の工事経歴書の書き方
建設業の許可をお持ちの事業者様は、毎年「決算変更届(事業年度終了届)」として、その事業年度の工事実績などを自治体へ提出する義務があります。
そして、公共工事への入札を考えている事業者様は、この決算変更届の提出と合わせて「経営事項審査(経審)」を受審します。
同じ工事経歴書でも、経審を受ける場合と受けない場合では、記載方法や求められる情報に違いがあります。
まずは、その違いを詳しく解説していきます。
経審を受けない場合の工事経歴書
公共工事への入札を考えておらず、許可の維持や更新のために決算変更届を提出する事業者様が該当します。
この場合の工事経歴書は、経審を受ける場合と比較して記載ルールが緩やかです。
主な特徴とポイント
- 記載件数と優先順位が柔軟
- 請負金額の大きい順に記載:元請け・下請けに関係なく、決算期内に完成した工事の中から請負金額の大きい順に記載していくのが一般的です。
- 件数に目安あり: 法律で定められた件数はありませんが、一般的には10件程度を目安に記載することが多いです。全ての工事を記載する必要はなく、代表的な工事を抜粋して記載します。
- 未完成工事の記載: 完成工事の後に、主な未完成工事(未成工事)についても、請負金額の大きい順に記載することが推奨されます。
経審を受ける場合の工事経歴書
経審を受ける場合の工事経歴書は、評価点に直結する重要な書類となるため、より厳格なルールに基づいて作成する必要があります。
主な特徴とポイント
- 記載件数と優先順位のルールが厳格
- 元請け工事を優先:まず、元請け工事を優先して記載します。特に、元請け工事の合計額の約7割に達するまで、請負金額の大きい順に記載していきます。これは、経審の「技術力(Z点)」において、元請けとしての実績がより高く評価される「7割計算」の仕組みがあるためです。
- 下請け工事の記載: 元請け工事で7割に達した後、残りの元請け工事と下請け工事を記載します。ここでも、全体の完成工事高の約7割に達するまで金額の大きい順に記載していきます。
- 軽微な工事の記載制限: 請負金額が少額な「軽微な工事」(建築一式工事で1,500万円未満、その他500万円未満)については、7割に達する前に10件に達した場合はそこで終了することができます。
- 「工事における立場」の明確化
- 「元請け」と「下請け」の区別を明確に記載することが非常に重要です。特に元請け工事は、経審の点数に大きく影響します。
- JV工事の場合はJV記載欄に「JV」と記載し、自社の出資比率に応じた請負金額を記載します。
- 「完成年月日」の厳守
- 経審の評価対象となるのは、原則として審査基準日(決算日)から直前1年間に完成(引き渡し済み)した工事のみです。
- 裏付け書類の準備
- 記載された工事について、工事請負契約書、請求書・領収書などの裏付け書類を完璧に準備し、提示できるよう整理しておく必要があります。
経審における「7割計算(元請け比率評価)」の重要性
経審の点数算出において、特に「技術力(Z点)」の評価では、元請けとしての完成工事高が重視されます。
ここで理解しておきたいのが「7割計算」と呼ばれる評価の仕組みです。
公共工事においては、下請け工事よりも元請け工事の実績がより高く評価されます。
これは、元請け工事が、発注者との直接契約、全体の工程管理、品質管理、安全管理など、より高度なマネジメント能力を要するとみなされるためです。
なぜ7割計算が重要なのか
- Z点への影響: 7割計算は、特に技術力(Z点)の評価を押し上げる要因となります。Z点は、技術職員数と並んで、会社の技術力を示す重要な指標です。
- 元請け実績のアピール: 公共工事の入札では、元請けとしての実績が重視される傾向があります。7割計算によってその実績が適切に評価されることで、入札時の優位性が高まります。
- 会社の成長戦略: 将来的に公共工事の受注を増やしたい、より大規模な工事に挑戦したいと考えるのであれば、積極的に元請け工事を受注し、その実績を工事経歴書に正確に反映させることが、戦略上非常に重要です。
2.経審の評価の仕組みと工事経歴書の立ち位置
まずは、経審がどのようにして会社の評価を行っているのか、そしてその中で工事経歴書がどのような位置づけにあるのかを確認しましょう。
経審の評価項目とP点
経審は、以下の4つの主要な要素を数値化し、それらを総合して「総合評定値(P点)」を算出します。
このP点が高いほど、入札参加資格審査での評価も高くなり、より大きな公共工事の入札に参加できる可能性が広がります。
- 経営状況(Y点): 会社の財務状態(自己資本額、売上高など)を評価します。
- 経営規模(X点): 完成工事高、自己資本額などを評価します。
- 技術力(Z点): 技術職員の数や、元請完成工事高などを評価します。
- その他(W点): 社会性(法令遵守、建設機械の保有状況など)を評価します。
工事経歴書は「X点」と「Z点」の根幹
この中で、工事経歴書が特に深く関わるのが、経営規模(X点)と技術力(Z点)です。
- 経営規模(X点)の「完成工事高」:工事経歴書に記載された各業種ごとの完成工事高が、そのままX点算出の基礎となります。ここでの金額が大きければ大きいほど、X点の評価は高くなります。
- 技術力(Z点)の「元請完成工事高」:Z点の一部では、元請けとしての完成工事高も評価されます。工事経歴書で「元請け」として記載された工事の実績が、ここでの評価に影響します。
つまり、工事経歴書は、経審の点数に直接的に、そして非常に大きく影響を与える「評価の源泉」であると言えるのです。
3.高得点を目指す!工事経歴書の戦略的作成術
工事経歴書は単に過去を記録するだけでなく、未来の評価を見据えて戦略的に作成することが重要です。
戦略1:対象期間内の完成工事を「漏れなく」記載する
- 重要性: 経審の対象となるのは、通常、審査基準日(決算日)から直前1年間の完成工事高です。この期間内の工事で、記載漏れが一つでもあると、その分だけ完成工事高が減ってしまい、X点の評価に直接響きます。
- 戦略
- 徹底した情報収集: 軽微な工事であっても、許可を受けている業種に該当するものは全て記載対象です。金額の大小にかかわらず、対象期間内の完成工事は全てリストアップしましょう。
- 完成日の厳守: 工事経歴書は「完成」が基準です。契約日や着工日ではなく、必ず引き渡しが完了した「完成年月日」を正確に記載してください。
戦略2:業種区分の「最適化」を図る
- 重要性: 経審では、各許可業種ごとに完成工事高が評価されます。一つの工事が複数の業種にまたがる内容を含んでいる場合、どの業種に計上するかで評価が変わることがあります。
- 戦略
- 主要な業種への計上: 例えば、建物新築工事で、建築一式工事の中に電気工事や管工事的な要素が含まれていても、主たる工事が建築一式であれば、建築一式工事として計上するのが一般的です。
- 自社の強みを活かす: 自社が特に力を入れたい業種や、実績を伸ばしたい業種がある場合、その業種として計上できる工事がないか、工事内容を精査してみましょう。
戦略3:請負金額の「正確性」と「裏付け」を徹底する
- 重要性: 請負金額の誤りは、経審の点数に直接影響するだけでなく、虚偽申請と見なされるリスクもあります。
- 戦略
- 税抜き金額の徹底: 請負金額は原則税抜きで記載します。消費税の計算ミスがないか、二重チェックを行いましょう。(許可行政庁により、免税業者を除く)
- 契約書との照合: 記載する請負金額が、工事請負契約書や注文書・請書の金額と完全に一致しているか確認しましょう。
戦略4:元請け工事を「積極的に」記載する
- 重要性: 経審の技術力(Z点)では、元請けとしての完成工事高も評価対象となります。元請け実績は、会社の総合的なマネジメント能力や責任施工体制を示すものとして高く評価される傾向にあります。
- 戦略
- 元請け工事の明確化: 元請け工事は「元請」と明記し、発注者名を正確に記載しましょう。
- JV工事の適切な記載: JV工事の場合も、自社の出資比率に応じた金額を元請け工事として計上できます。JV協定書に基づき、正確に記載しましょう。
工事経歴書は、経審の点数を左右する非常に重要な書類であり、特に「7割計算」のように元請け実績が評価される仕組みを理解しておくことは、高得点獲得へのカギとなります。
日頃からの正確な情報管理と、経審を見据えた戦略的な作成が、貴社の公共工事受注の可能性を広げ、さらなる事業発展へと繋がります。
この情報が、あなたの事業の発展に少しでも貢献できれば幸いです。

