建設業の経営者は必読!経審Y点(経営状況)が悪化する「意外な落とし穴」とは?
会社の経営を健全に保ち、公共工事を受注するために欠かせない経営事項審査(経審)。
その中でも会社の健康状態を示すY点(経営状況分析)は、多くの経営者様が注目されるポイントですよね。
「うちはしっかり利益を出してるはずなのに、なぜかY点が上がらない」
「むしろ、前より下がってしまったのはなぜ?」
もしかしたら、そんな疑問を抱えていらっしゃるかもしれません。
実は、Y点が悪化する原因の中には、日々の経営で「良かれ」と思ってやっていることや、見落としがちな「意外な落とし穴」が潜んでいることがあるんです。
今回は、そんなY点悪化の意外な落とし穴について、分かりやすく解説していきますね。
1.経審のY点(経営状況分析)とは?なぜ意外な落とし穴があるの?
まず、Y点について簡単におさらいしましょう。
経審のY点(経営状況分析)は、皆さんの会社の財務状況を数値化して評価するものです。
具体的には、以下の8つの経営指標から構成されています。
- 自己資本比率:会社の財務の安定性
- 損益分岐点比率:収益性(売上がどれくらい減ると赤字になるか)
- 総資本売上総利益率:効率性(資産をどれだけ有効活用できているか)
- 総資本事業利益率:収益性(本業でどれだけ利益を上げているか)
- 自己資本対固定資産比率:財務健全性
- 売上高経常利益率:収益性(売上に対する総合的な利益の割合)
- 自己資本対負債比率:財務健全性
- 営業キャッシュフロー:資金繰り(本業でどれだけ現金を生み出しているか)
Y点は、これらの指標を総合的に見て点数化されます。
だからこそ、「一見、良さそうに見える」行動が、実はY点の特定の指標に悪影響を与え、結果的にY点全体を下げてしまう「落とし穴」になることがあるのです。
2.Y点算出の舞台裏:経営状況分析機関と計算式
Y点を算出してもらうためには、国土交通大臣の登録を受けた「経営状況分析機関」に会社の財務諸表を提出し、分析を依頼する必要があります。
| 登録番号 | 機関の名称 |
|---|---|
| 1 | (一財)建設業情報管理センター |
| 2 | (株)マネージメント・データ・リサーチ |
| 4 | ワイズ公共データシステム(株) |
| 5 | (株)九州経営情報分析センター |
| 7 | (株)北海道経営情報センター |
| 8 | (株)ネットコア |
| 9 | (株)経営状況分析センター |
| 10 | 経営状況分析センター西日本(株) |
| 11 | (株)日本建設業経営分析センター |
| 22 | (株)建設業経営情報分析センター |
これらの機関に、皆さんの会社の決算書などの書類を提出すると、専門的な分析が行われ、Y点が算出されます。
Y点の具体的な計算式は少し複雑ですが、基本的には、先ほど挙げた8つの経営指標をそれぞれ点数化し、それらに国が定めた重み付けの係数を乗じて合算することで算出されます。
経営状況評点Y = 167.3 × A(経営状況点数) + 583
小数点以下第1位を四捨五入
経営状況点数A = -0.4650 × X1 – 0.0508 × X2 + 0.0264 × X3 + 0.0277 × X4
+ 0.0011 × X5 + 0.0089 × X6 + 0.0818 × X7 + 0.0172 × X8 + 0.1906
小数点以下第3位を四捨五入
| 指標 | 算出式 |
|---|---|
| 純支払利息比率 | 「下限:5.1 上限:-0.3(小数点第4位四捨五入)」 ※計算結果が低い数値程高評価になる |
| 負債回転期間 | ![]() 「下限:18.0 上限:0.9(小数点第4位四捨五入)」 ※計算結果が低い数値程高評価になる |
| 総資本売上総利益率 | 「下限:6.5 上限:63.6(小数点第4位四捨五入)」 ※個人の場合、売上総利益=完成工事総利益 ※総資本=負債純資産合計 ※総資本(2期平均)=3000万円に満たない場合は、3000万円 とみなす |
| 売上高経常利益率 | ![]() 「下限:-8.5 上限:5.1(小数点第4位四捨五入)」 ※個人の場合、経常利益=事業主利益 |
| 自己資本対固定資産比率 | 「下限:-76.5 上限:350.0(小数点第4位四捨五入)」 |
| 自己資本比率 | ![]() 下限:-68.6 上限:68.5(小数点第4位四捨五入)」 |
| 営業キャッシュ・フロー | 「下限:-10.0 上限:15.0(小数点第4位四捨五入)」 ※営業キャッシュ・フロー= 経常利益+減価償却実施額-法人税住民税及び事業税±引当金増減額±売掛債権増減額±仕入債務増減額±棚卸資産増減額±受入金増減額 ※引当金=貸倒引当金 (注1) ※売掛債権=受取手形+完成工事未収入金(注2) ※仕入債務=支払手形+工事未払金 (注1) ※棚卸資産=未成工事支出金+材料貯蔵品(注2) ※受入金=未成工事受入金 (注1) ※増減額:(基準決算の額)-(基準決算の直前の審査基準日の額) (注1)増の場合は加算、減の場合は減算 (注2)増の場合は減算、減の場合は加算 |
| 利益剰余金 | ![]() 「下限:-3.0 上限:100.0(小数点第4位四捨五入)」 ※利益剰余金=利益剰余金合計 ※個人の場合、利益剰余金=純資産合計 |
この計算式があるからこそ、個々の指標の変動がY点にどう影響するかを理解することが重要になります。
建設業財務諸表は「税抜き」で
ちなみに経営事項審査では、原則税抜きで作成するのが基本的なルールになっています。
許可行政庁により、免税事業者は、消費税込み可とされています。
そのため建設業財務諸表も課税事業者は、「税抜き」で作成する必要があります。
そして流動負債の「未払消費税」または流動資産の「未収消費税」を必ず計上しなければなりません。
決算書から建設業財務諸表を作成する必要がありますが、税理士に消費税抜きの決算書を用意してもらっているのが楽です。
消費税込か消費税抜の見分け方
- 注記表で確認する
税務申告の決算書にある注記表を確認するのが、最も楽な簡単な確認方法です。
しかし注記表の記載に間違いないことが前提となります。 - 税理士に確認する
注記表がない場合は税理士に確認するのが、最も確実な確認方法です。 - 法人事業概況説明書で確認する
法人税の確定申告書に、『法人事業概況説明書』の書類があります。
その中の「8経理の状況」という欄で、判断することができます。 - 消費税の確定申告書で確認する
消費税の確定申告書に、「①課税標準額」という欄があります。
売上の他に営業外収益等を含んだ収益の消費税抜きの金額です。
経営事項審査で重要な金額でして、「売上高」と「課税標準額」を比較して判断します。
課税標準額≧売上高 → 税抜き
課税標準額<売上高 → 非課税売上がない限り税込み
消費税込 → 消費税抜に変換する方法
- 損益計算書(完成工事原価報告書および兼業事業売上原価報告書を含む)の消費税額を計算する。
消費税の課税取引かどうかについては、個人事業向けですが、国税庁ホームページの「消費税課税取引の判定表」を参考にしてください。 - 「預かった消費税」と「支払った消費税」の差額を計算する。
預かった消費税が大きい場合は、営業外収益(消費税差額)として計上する。
支払った消費税が大きい場合は、営業外費用として計上する。 - 決算書が現金主義(貸借対照表に未払消費税が計上されていない)の場合、消費税確定申告書の項番㉖「消費税及び地方消費税の合計税額」を貸借対照表の「未払消費税」に計上し、損益計算書の「租税公課」にも計上して発生主義に切り替える。
そして消費税額を「租税公課」に含めたため、租税公課と営業外収益を相殺する。
企業会計原則で、「すべての費用および収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられるように処理しなければならない」とされています。
要するに「現金主義」ではなく、「発生主義」を原則とする会計を求められています。
未払法人税が計上されていない修正処理
- 決算書から損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」、貸借対照表の「未払法人税等」のゼロを確認し、税金を発生させる処理が必要であることを確認する。
- 『租税公課の納付状況等に関する明細書 別表五(二)』の⑥欄「期末現在未納税額」を、貸借対照表の「未払法人税等」に計上する。
- 『租税公課の納付状況等に関する明細書 別表五(二)』の②欄「当期発生税額」を、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に計上する。
- 『租税公課の納付状況等に関する明細書 別表五(二)』の⑤欄「損金経理による納付」は、過年度分の法人税等が「租税公課」で費用処理としていると考えられるため、「租税公課」からマイナスする。マイナスにした過年度分の法人税等を、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に計上する。
もう1点、税金で気を付けるべきことがあります。
決算書に「仮払税金」を計上している場合です。
翌期に還付される税金を「仮払税金」として計上しているのであれば、「未収還付法人税等」と科目名を変更するだけで良いです。
しかし当期発生税額として費用処理すべき税金を、中間納付分として流動資産に残している場合です。
その場合は、貸借対照表の「仮払税金」をゼロにし、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」へ計上します。
その分、「当期純利益」もマイナスになります。
3.経営者が陥りやすいY点悪化の「意外な落とし穴」とは?
では、多くの建設業の経営者様が見落としがちな、Y点悪化に繋がる「意外な落とし穴」を具体的に見ていきましょう。
落とし穴1:利益は出ているのに「手元現金」が少ない
「うちの会社はちゃんと利益出してるから大丈夫!」と思っていませんか?
損益計算書で黒字でも、実はY点の重要な評価項目である「営業キャッシュフロー」が悪化しているケースがあります。
- 原因: 売上が急増した際に、売掛金の回収が遅れたり、仕入れや外注費の支払いが先行したりすることで、帳簿上は黒字でも手元に現金が残らない「黒字倒産」寸前の状態になることがあります。
また、過剰な在庫や未着工の資材への先行投資も、現金を固定化させます。
- Y点への影響: 営業キャッシュフローの項目が悪化し、Y点全体を大きく引き下げます。
また、資金繰り悪化により短期借入金が増えれば、自己資本対負債比率にも悪影響が出ます。
- 対策: 売掛金の回収サイトの短縮、回収漏れの徹底防止。不要な在庫は持たない、高額な資材の仕入れ時期を最適化する。
キャッシュフロー計算書を定期的に確認し、現金の流れを常に把握する。
落とし穴2:節税対策が行き過ぎて「自己資本」を減らしてしまう
「税金を減らすために、利益を圧縮しよう」と考えるのは自然なことかもしれません。
しかし、過度な節税対策が、Y点に悪影響を与えることがあります。
- 原因: 利益が出た際に、必要以上の固定資産(高額な車両や重機、社屋など)を購入したり、多額の修繕費や広告宣伝費を計上したりすることで、当期純利益を減らしてしまうケースです。
- Y点への影響: 当期純利益の減少は、自己資本の増加を阻害します。
自己資本が十分増えないと、自己資本比率や自己資本対固定資産比率、自己資本対負債比率が悪化し、Y点が低下してしまいます。
また、過剰な固定資産の購入は、総資本売上総利益率や総資本事業利益率といった資産効率の指標も悪化させる可能性があります。
- 対策: 節税も大切ですが、会社の財務体質を長期的に健全に保つ視点を持つこと。
不要不急の固定資産購入は控え、本当に必要な投資かどうかを慎重に見極める。
税理士と連携しつつ、Y点への影響も考慮したバランスの取れた決算対策を行う。
落とし穴3:事業拡大のための「安易な借入」
「もっと大きな工事を受注するために、まとまった資金が必要だから借入れよう!」という意欲は素晴らしいです。
しかし、資金計画が甘い安易な借入は、Y点を下げるリスクをはらんでいます。
- 原因: 返済計画が明確でない、または返済能力を超えた過剰な借入を行うと、会社の負債が膨らんでしまいます。
- Y点への影響: 負債が増えることで、自己資本対負債比率が悪化します。
また、金利負担が増えれば、売上高経常利益率や損益分岐点比率にも悪影響が出ることがあります。
- 対策: 借入を行う際は、返済計画を綿密に立て、会社の返済能力を客観的に評価すること。
自己資本を増やす努力を並行して行い、負債とのバランスを取る。
Y点が悪化する原因は、表面的なものだけでなく、意外なところに潜んでいることがあります。
しかし、その原因を正しく見つけ出し、適切な対策を講じれば、必ずY点は改善します。
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