経営状況分析(Y点)で点数アップしたい
経営事項審査とは、公共工事の受注をめざす建設業者に義務づけられている審査です。
その中の評価項目の一つとして、財務状況を確認する「経営状況分析」(Y点)があります。
この記事では『経営事項審査』を受けたい建設業者様のために、「経営状況分析」(Y点)で点数アップをしたい方に向けて説明しています。
目次
1.経営状況分析(Y点)の算出方法
経営事項審査を受ける前に、必ず経営状況分析を申請し、経営状況分析結果通知書(Y点)を取得しておく必要があります。
経営状況分析については、以下の記事でまとめています。
経営事項審査は、以下の計算式で総合評点値(P点)を算出します。
総合評定値(P点)=(X1点)×0.25+(X2点)×0.15+(Y点)×0.20+(Z点)×0.25+(W点)×0.15
経営事項審査の指標をアルファベットで表します。
経営状況(Y点)は、総合評定値(P点)のウエイトで20%あることになります。
経営状況(Y点)は、8つの指標で構成されています。
Y点の評点幅は、最高1,595点~最低0点になります。
「純支払利息比率」と「負債回転期間」は、数値が小さいほど良い指標になります。
残りの6つは、数値が大きいほど良い指標になります。
(令和5年1月改正分)
指標 | 算出式 |
---|---|
純支払利息比率 | 「下限:5.1 上限:-0.3(小数点第4位四捨五入)」 ※計算結果が低い数値程高評価になる |
負債回転期間 | 「下限:18.0 上限:0.9(小数点第4位四捨五入)」 ※計算結果が低い数値程高評価になる |
総資本売上総利益率 | 「下限:6.5 上限:63.6(小数点第4位四捨五入)」 ※個人の場合、売上総利益=完成工事総利益 ※総資本=負債純資産合計 ※総資本(2期平均)=3000万円に満たない場合は、3000万円 とみなす |
売上高経常利益率 | 「下限:-8.5 上限:5.1(小数点第4位四捨五入)」 ※個人の場合、経常利益=事業主利益 |
自己資本対固定資産比率 | 「下限:-76.5 上限:350.0(小数点第4位四捨五入)」 |
自己資本比率 | 下限:-68.6 上限:68.5(小数点第4位四捨五入)」 |
営業キャッシュ・フロー | 「下限:-10.0 上限:15.0(小数点第4位四捨五入)」 ※営業キャッシュ・フロー= 経常利益+減価償却実施額-法人税住民税及び事業税±引当金増減額±売掛債権増減額±仕入債務増減額±棚卸資産増減額±受入金増減額 ※引当金=貸倒引当金 (注1) ※売掛債権=受取手形+完成工事未収入金(注2) ※仕入債務=支払手形+工事未払金 (注1) ※棚卸資産=未成工事支出金+材料貯蔵品(注2) ※受入金=未成工事受入金 (注1) ※増減額:(基準決算の額)-(基準決算の直前の審査基準日の額) (注1)増の場合は加算、減の場合は減算 (注2)増の場合は減算、減の場合は加算 |
利益剰余金 | 「下限:-3.0 上限:100.0(小数点第4位四捨五入)」 ※利益剰余金=利益剰余金合計 ※個人の場合、利益剰余金=純資産合計 |
2.経営状況分析の8つの指標
純支払利息比率
売上高に対して、実質的な金利負担がどれだけあるかを示す指標です。
- 支払利息
「支払利息」は借入金のことなので、数値が小さいほど点数が良くなります。
銀行からの借入金を返済し、少しでも支払利息を減らします。
決算書内の勘定科目に「支払利息割引料」の勘定科目があれば、含めてしまうと点数が悪くなります。
純然たる支払利息のみを計上するようにしましょう。 - 受取利息配当金
「支払利息」から差し引くため、「受取利息配当金」が大きいほど点数が良くなります。
銀行からの受取利息のほか、関係会社や従業員への貸付利息を含みます。
決算書内の「雑収入」の勘定科目に配当金が含まれていないことを確認しましょう。 - 売上高
計算式の分母のため、大きいほど点数が良くなります。
完成工事高だけでなく、兼業事業売上高を含めた「総売上高」で評価されます。
負債回転期間
負債総額が1か月あたりの平均売上高において、何カ月分に相当するかを示す指標です。
- 流動負債+固定負債
「負債合計」が小さいほど、点数が良くなります。
不必要な借入れをしないように、常日頃からの注意が必要となります。 - 売上高÷12
計算式の分母のため、大きいほど点数が良くなります。
完成工事高だけでなく、兼業事業売上高を含めた「総売上高」で評価されます。
12で割って、1か月あたりの平均売上高を計算します。
総資本売上総利益率
保有している資産を使用して、どれだけ効率よく売上総利益(粗利)を稼げたかを示す指標です。
- 売上総利益
数値が大きくなるほど、点数が良くなります。
売上から原価を差し引いたものが「売上総利益」です。
完成工事総利益だけでなく、兼業事業分を含めて評価されます。 - 総資本
計算式の分母のため、小さいほど点数が良くなります。
ただし2期平均の額が、30,000千円未満の場合は、30,000千円とみなします。
規模が大きい会社が有利というわけではなく、この指標では比率で評価します。
そのため売上総利益が増えても、総資本が増えると点数は低くなります。
売上高経常利益率
本業と経常的な財務活動で生み出した利益が、売上高に対してどれくらい稼げたかを示す収益性の指標です。
- 経常利益
数値が大きくなるほど、点数が良くなります。
日々の努力により、売上を上げて無駄な経費の支出を抑える必要があります。 - 売上高
計算式の分母のため、小さいほど点数が良くなります。
この指標は、売上が小さいほど点数が良くなります。
しかしこの指標のために、売上を下げる必要はなく、他の指標のほうを優先すべきです。
自己資本対固定資産比率
固定資産への投資が、返済の必要がない自己資本でカバーできているかを示す指標です。
- 自己資本
数値が大きくなるほど、点数が良くなります。
自己資本は、株主が出資した「資本金」と企業が事業活動から稼いだ「利益剰余金」です。
新たな出資を募り資本金を増やし、毎年利益を出し続けることが重要となります。 - 固定資産
計算式の分母のため、小さいほど点数が良くなります。
固定資産を持たない会社のほうが点数が良くなるのですが、建設業者にとって必要な設備投資は必要です。
固定資産比率が高い場合は、何が原因なのか慎重に見極める必要があります。
自己資本比率
返済する必要の自己資本が、資産全体に占める割合を示す指標です。
- 自己資本
数値が大きくなるほど、点数が良くなります。
自己資本は、株主が出資した「資本金」と企業が事業活動から稼いだ「利益剰余金」です。
新たな出資を募り資本金を増やし、毎年利益を出し続けることが重要となります。 - 総資本
計算式の分母のため、小さいほど点数が良くなります。
貸借対照表の資産合計や負債純資産合計のボリュームが、売上や総利益に比べて大きくなりすぎないようにする必要があります。
営業キャッシュ・フロー
本業によって、手元のお金がどれだけ増減したかを示す指標です。
- 営業キャッシュフロー
当期営業CFと前期営業CFをそれぞれ計算し、2年平均で判断します。
本業である営業活動からどれだけお金を稼いで、お金を使っているのかを示すものです。
分母は1億で固定されているため、分子だけで確認します。
中小企業は、あまり点数がつかないようになっていますので、あまり気にする必要はありません。
利益剰余金
事業活動を継続することで、利益をどれだけ積み重ねたかを示す指標です。
- 利益剰余金
数値が大きくなるほど、点数が良くなります。
事業活動を通じて得た利益のうち、株主への配当や設備投資などに回されずに、会社内部に蓄えられたお金です。
企業が将来の成長のために蓄えている「貯金」のようなものです。
分母は1億で固定されているため、分子だけで確認します。
中小企業は、あまり点数がつかないようになっていますので、あまり気にする必要はありません。
3.8指標のうち何を重点にすべきか
8つの指標のうち、「営業キャッシュフロー」と「利益剰余金」は絶対評価です。
分母は1億で固定されているため、分子だけで確認します。
企業規模が大きいほど、有利に働きます。
そのため中小企業の対策として、優先度は低くなります。
8つの指標は均等に評価の対象となるわけではなく、Y点に与える寄与度があります。
下表のとおりになります。
指標 | 寄与度 |
---|---|
純支払利息比率 | 29.9% |
負債回転期間 | 11.4% |
総資本売上総利益率 | 21.4% |
売上高経常利益率 | 5.7% |
自己資本対固定資産比率 | 6.8% |
自己資本比率 | 14.6% |
営業キャッシュ・フロー | 5.7% |
利益剰余金 | 4.4% |
寄与度を確認すると、「純支払利息比率」「負債回転期間」「総資本売上総利益率」「自己資本比率」の比率が高くなります。
ポイントとしては、以下のとおりです。
- 金利の低い融資の活用や、支払利息を下げることを意識し「純支払利息比率」を下げる。
- 短期借入金を返済することで、「負債回転期間」を下げる。
- 利益率を上げる事で、「総資本売上総利益率」を上げる。
- 増資することで自己資本額をあがりますので、「自己資本比率」が上がる。
8つの指標すべてを追いかけるのは現実的ではなく、中小企業によって重要な指標を講じることが大切なんだね。