知っておきたい「一括下請け」の法的リスクと正しい対応
お仕事で「一括下請け」という言葉を耳にしたことはありますか?
建設業界などでは特に聞く機会が多いかもしれませんが、これは実は法律で厳しく規制されている行為なんです。
今回は、知らず知らずのうちに法的なリスクを負ってしまわないよう、その内容と正しい対応について詳しく見ていきましょう。
1.「一括下請け」って、そもそもどんなこと?
まず、「一括下請け」とは具体的に何を指すのでしょうか。
これは、元請けとして請け負った建設工事の全て、または主要な部分を、そのまま別の業者に丸投げしてしまうことを言います。
例えば、皆さんがお客様から建物の建築工事を請け負ったとします。
その際、自分たちで直接工事を行うのではなく、契約した工事のほとんどを別の下請け業者に任せきりにしてしまうのが「一括下請け」に該当します。
なぜこれが問題になるかというと、請負契約は、元請け業者自身の技術や経験、責任に基づいて工事を行うことを前提としているからです。
これを第三者に丸投げしてしまうと、以下のようないくつかの問題が生じる可能性があります。
- 責任の所在が不明確になる: 実際に工事を行う業者と、お客様との契約関係がある元請け業者の間で、もし何か問題が起こった際に、誰が責任を取るのかが曖昧になってしまいます。
- 品質の低下を招く可能性: 元請け業者が現場を適切に管理・監督しないことで、工事の品質が低下するリスクが高まります。
- お客様の信頼を損なう: お客様は元請け業者を信頼して工事を依頼しているのに、その実態が丸投げだと知れば、不信感につながってしまいますよね。
このような理由から、建設業法という法律で、原則として「一括下請け」は禁止されています。
2.「一括下請け」がもたらす法的リスク
「一括下請け」は単なるモラルや信頼の問題だけでなく、明確な法的リスクを伴います。
具体的にどのような罰則や不利益があるのでしょうか。
- 行政処分の対象に: 最も大きなリスクは、建設業法に基づく行政処分の対象となることです。具体的には、営業停止処分を受けたり、最悪の場合、建設業許可を取り消されてしまう可能性もあります。許可が取り消されれば、当然、新たな工事を請け負うことができなくなり、事業の継続が困難になってしまいます。
- 損害賠償請求のリスク: もし一括下請けが原因で工事に欠陥が生じたり、お客様に損害を与えてしまった場合、元請け業者はその損害について賠償責任を負うことになります。責任の所在が曖昧であっても、お客様との契約関係は元請け業者にあるため、責任から逃れることはできません。
- 企業イメージの悪化: 法的なリスクだけでなく、社会的な信用も失ってしまいます。「あの会社は丸投げする」という評判が立てば、新たな取引先を見つけるのも難しくなりますし、既存のお客様からの信頼も失墜してしまいます。
これらのリスクを考えると、「一括下請け」がいかに危険な行為であるかがお分かりいただけるかと思います。
3.法的リスクを避けるための「正しい対応」と「例外規定」
では、法的リスクを避け、安心して事業を行うためにはどうすれば良いのでしょうか。
もちろん、「一括下請け」をしないことが大前提ですが、その上でいくつかポイントがあります。
特に、一部のケースでは例外的に一括下請けが認められる場合がありますので、その点も詳しく見ていきましょう。
- 原則は「自社施工」と「適切な下請け契約」
- 自社施工を基本とする: 請け負った工事は、原則として自社の技術者や従業員が責任を持って施工することが最も重要です。
- 一部の下請けは適法に: 全ての工事を自社で行うのが難しい場合、専門的な部分や一部の作業を他の業者に依頼すること自体は問題ありません。ただし、その際も以下の点に注意しましょう。
- 元請けが主要部分を施工・管理する: 工事全体の工程管理や品質管理、安全管理など、主要な部分については元請けが責任を持って行いましょう。
- 下請け契約を適切に締結する: 下請け業者との間には、明確な業務範囲や責任、報酬などを定めた書面による契約を必ず締結してください。
- 施主(お客様)の同意を得る: 工事の一部を下請けに任せる場合でも、事前に施主の理解と同意を得ておくことが望ましいです。特に、専門工事などで特定の業者に依頼する必要がある場合は、その旨をしっかりと説明し、納得してもらいましょう。
- 共同企業体(JV)の活用も検討: 大規模な工事などで単独では請け負うのが難しい場合、複数の建設業者が共同で事業を行う共同企業体(JV)を組成するという方法もあります。これはそれぞれが責任を持って分担して工事を行うため、一括下請けとは異なります。
- 一括下請けが「例外的に認められる」ケース
原則として禁止されている一括下請けですが、建設業法には例外規定が設けられています。
それは、以下の2つの条件を両方満たす場合です。- 「多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの」以外の建設工事であること
- これは具体的に、「共同住宅を新築する建設工事」ではないということです。
つまり、マンションやアパートなど、不特定多数の人が利用する共同住宅の新築工事については、いかなる場合でも一括下請けは禁止されています。 - 共同住宅の新築工事以外(戸建て住宅の新築工事や、共同住宅の改修工事、店舗の建設工事など)がこの例外規定の対象となり得ます。
- これは具体的に、「共同住宅を新築する建設工事」ではないということです。
- 元請負人があらかじめ発注者(施主)の書面による承諾を得ていること
- 口頭ではなく、必ず書面(紙面でも電子データでも可)で発注者からの承諾を得る必要があります。
- この承諾は、一括下請けを行う前に取得しなければなりません。
- 「多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの」以外の建設工事であること
【例外規定が適用されない工事】
- 公共工事: 「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」により、公共工事については、いかなる場合であっても一括下請けは全面的に禁止されています。
たとえ発注者の承諾があっても、公共工事では例外は認められません。 - 共同住宅の新築工事: 上記の通り、民間工事であっても、マンションやアパートなどの共同住宅を新築する工事は、一括下請けが禁止されています。
【例外が認められた場合でも注意すること】
- たとえ発注者の書面による承諾を得て一括下請けが合法的に行われたとしても、元請け業者としての責任が免除されるわけではありません。
- 引き続き、建設業法に定められる主任技術者や監理技術者の配置義務など、元請けとしての各種義務は遵守する必要があります。
- 一括下請けを行った工事は、経営事項審査の完成工事高として計上できない場合があります。これは、実質的に自社が施工に深く関与していないとみなされるためです。将来の入札参加資格などに影響が出る可能性がありますので、この点もよく理解しておく必要があります。
一括下請けは、目先の利益や手軽さに惑わされがちですが、長期的に見れば大きなリスクしかありません。
法令を遵守し、お客様からの信頼を第一に考えることが、事業を安定的に継続していく上で何よりも大切です。
この情報が、あなたの事業の発展に少しでも貢献できれば幸いです。

