決算変更届の貸借対照表のつくり方
建設業法には毎年提出が義務づけられている、『決算変更届』と呼ばれる書類があります。
その中に『貸借対照表』と呼ばれる書類がありますが、税理士が作成した決算書から建設業法に適した形式で翻訳作業が必要とします。
この記事では、『貸借対照表』の作成ポイントをまとめています。
1.貸借対照表(様式第15号)の記載項目
『貸借対照表』は、年度末時点での会社の財政状況を示す書類です。
お金を調達、運用、収益、費用を要し、結果として利益がいくら残るのかを表しています。
税務申告の決算書では「勘定式」が一般的ですが、建設業財務諸表では「報告式」で記載します。見慣れない方には見ずらいかと思います。
「報告式」とは、資産、負債と純資産を一列で表示させる形式です。
そのほかに「勘定式」というのがあり、資産の借方項目を左側、負債・純資産の貸方項目を右側に表示させる形式があるよ。
『貸借対照表』の書き方例は、以下のようになります。
青字の項目は、大阪府の様式にはない項目で追加しています。
資産の部
- 流動資産
- 現金預金
現金のほか、小切手、送金為替手形、郵便為替証書、期限の到来した公社債の利札などです。
預金および金銭債権で、決算期後1年以内に現金化できると認められるものも含まれます。
(決算書の表示例=現金、普通預金、当座預金、定期預金、積立預金、小切手) - 受取手形
営業取引によって発生した手形債権および電子記録債権を記載します。
(決算書の表示例=受取手形、電子記録債権) - 完成工事未収入金
完成工事高に計上した工事代金に係る未収入金額を記載します。
兼業事業の売掛金やその他の未収入金と区別します。
(決算書の表示例=完成工事未収入金、売掛金、未収入金) - 有価証券
時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券および決算期後1年以内に満期の到来する有価証券です。
(決算書の表示例=有価証券、売買目的有価証券) - 未成工事支出金
期末時点で完了していない工事に支出した工事費を記載します。
(決算書の表示例=未成工事支出金、前渡金、仕掛工事、仕掛品、棚卸資産) - 材料貯蔵品
手持ちの工事用材料および消耗工具器具ならびに事務消耗品などのうち、未成工事支出金または完成工事原価または販売費及び一般管理費として処理されなかったものを記載します。
(決算書の表示例=原材料、貯蔵品、仮設材料、商品) - 短期貸付金
役員や従業員、関連会社などに対しての貸付金で、決算期後1年以内に回収されると認められるものを記載します。
(決算書の表示例=短期貸付金、従業員貸付金) - 前払費用
未経過保険料、未経過支払利息、前払賃借料等の費用の前払いで、決算期後1年以内に費用となるものを記載します。
(決算書の表示例=前払費用、前払保険料、前払賃貸料) - その他
完成工事未収入金以外の未収金や、営業外受取手形、その他決算期後1年以内に現金化できると認められるものを記載します。
(決算書の表示例=JV出資金、立替金、未収入金、仮払金、預り金、営業外受取手形など) - 貸倒引当金
流動資産に属する各債券に対する貸倒見込額を記載します。
(決算書の表示例=貸倒引当金)
- 現金預金
- 固定資産
- (1) 有形固定資産
- 建物・構造物
事業の用に供し、または事業の用に供することを目的として保有する建物および土地に定着する土木設備または工作物を記載します。
(決算書の表示例=建物、倉庫、工作物) - 機械・運搬具
機械および装置や自動車、その他陸上運搬具などを記載します。
(決算書の表示例=機械、車両運搬具、船舶) - 工具器具・備品
各種工具・器具の他、金属製の足場等の仮設材料、什器備品を記載します。
(決算書の表示例=工具、器具、什器備品) - 土地
自社所有の土地の取得価額を記載します。
(決算書の表示例=土地) - リース資産
ファイナンス・リース取引におけるリース物件(有形固定資産)の借主である資産を記載します。 - 建設仮勘定
自社ビルや工場などの有形固定資産の建設中に支払われた費用を記載します。 - その他
他の勘定科目に属さない有形固定資産を記載します。
(決算書の表示例=美術品、少額償却資産)
- 建物・構造物
- (2) 無形固定資産
- 特許権
有償取得または無償で創設した特許権の額を記載します。
(決算書の表示例=特許権) - 借地権
他人所有の土地を使用する場合に使用する土地の賃借料を記載します。
(決算書の表示例=借地権) - のれん
合併、事業譲渡等により取得した事業の取得原価が、取得した資産および引き受けた負債に配分された総額を上回る場合の超過額を記載します。
(決算書の表示例=のれん、営業権) - リース資産
ファイナンス・リース取引におけるリース物件(無形固定資産)の借主である資産を記載します。
(決算書の表示例=リース資産) - その他
他の感情科目に属さない無形固定資産を記載します。
(決算書の表示例=電話加入権、施設利用券、ソフトウェア)
- 特許権
- (3) 投資その他の資産
- 投資有価証券
1年を超えて保有する有価証券(満期保有目的債権)や、他社との業務提携や株式の相互持合いなどを目的として保有する有価証券を記載します。
(決算書の表示例=株式、満期保有目的債有価証券) - 関係会社株式・関係会社出資金
企業が他の企業(関係会社)の株式を取得したり、出資を行ったりした際に、その金額を記載します。
(決算書の表示例=関係会社株式、関係会社出資金、子会社株式、子会社出資金) - 長期貸付金
流動資産に記載された短期貸付金以外の貸付金を記載します。
(決算書の表示例=長期貸付金、従業員貸付金) - 破産更生債権等
営業取引によって生じた債権および貸付金や立替金等のその他の債権のうち、破産債権、再生債権、再生債権その他これらに準ずる債権で、決算期後1年以内に弁済を受けられないことが明らかなものを記載します。
(決算書の表示例=破産債権、更生債権) - 長期前払費用
未経過保険料、未経過支払利息、前払賃借料等の費用の前払いで、流動資産に記載された前払費用以外のものを記載します。
(決算書の表示例=長期前払費用、リサイクル預託金) - 繰延税金資産
税効果会計の適用により、法人税等の前払いを資産として記載します。
(決算書の表示例=繰延税金資産) - その他
出資金や1年を超える債権、税務上の繰延資産等、他の勘定科目に属さない投資その他の資産を記載します。
(決算書の表示例=出資金、保険積立金、ゴルフ会員権、リゾート会員権) - 貸倒引当金
「投資その他の資産」に属する各債権に対する貸倒見込額を記載します。
- 投資有価証券
- (1) 有形固定資産
- 繰延資産
- 創立費
定款作成の認証費用や設立当期の登録免許税等の設立費用、行政書士や司法書士に依頼したときの報酬、事務所の契約費用等、会社設立のために支出した費用を記載します。 - 開業費
事務所の家賃や広告費、備品購入等、会社を設立したあと実際に事業に開始するまでに支出した開業準備のための費用を記載します。 - 株式交付費
株式募集のための広告費や金融機関の取扱手数料等、新株発行や自己株式の処分に直接かかった費用を記載します。 - 社債発行費
社債募集のための広告費や金融機関の取扱手数料等、社債発行に直接かかった費用を記載します。 - 開発費
新技術の開発や新市場の開拓等のためにかかった費用を記載します。
- 創立費
負債の部
- 流動負債
- 支払手形
原材料の購入や外注費の支払い等、営業取引によって発生した手形債務および電子記録債務を記載します。
(決算書の表示例=支払手形、電子記録債務) - 工事未払金
工事に算入されている外注費や材料費等の未払額を記載します。
(決算書の表示例=工事未払金、買掛金) - 短期借入金
決算期後1年以内に返済するものと認められる借入金を記載します。
(決算書の表示例=短期借入金、役員借入金、手形借入金) - リース債務
ファイナンス・リース取引におけるもので、決算期後1年以内に支払われると認められるものを記載します。
(決算書の表示例=リース債務) - 未払金
固定資産購入代金の未払金、未払配当金およびその他の未払金で、決算期後1年以内に支払わえると認められるものを記載します。
(決算書の表示例=未払金、未払配当金) - 未払費用
未払給料手当、未払利息等、一定の契約にもとづき継続的な役務の提供を受ける場合に、提供された役務に対して未払いとなっているものを記載します。
(決算書の表示例=未払給料手当、未払利息) - 未払法人税等
当期利息に対する法人税、住民税及び事業税の未払い額を記載します。
(決算書の表示例=未払法人税等、納税充当金、納税引当金) - 未払工事受入金
引き渡しを完了していない工事についての請求代金の受入額のことで、工事に関する前受金を記載します。
(決算書の表示例=未成工事受入金、前受金) - 預り金
営業取引・営業外取引を問わず発生した預り金で、決算期後1年以内に返済されるもの、または返済されると認められるものを記載します。
(決算書の表示例=預り金、所得税預り金、従業員預り金) - 前受収益
前受利息や前受賃貸料等、継続的なサービス提供の契約にもとづいて受け取った代金で、サービスの提供自体は次期以降になるものを記載します。
(決算書の表示例=前受収益、前受利息、前受家賃) - ・・・引当金
修繕引当金、完成工事補償引当金、工事損失引当金等の負債性引当金のうち、債務の発生が1年以内の短期的なものを記載します。
(決算書の表示例=修繕引当金、完成工事補償引当金、工事損失引当金) - その他
営業外支払手形その他決算期後1年以内に支払いまたは返済されると認められるもので、他の流動負債科目に属さないものを記載します。
(決算書の表示例=借受金、営業外支払手形、預り保証金)
- 支払手形
- 固定負債
- 社債
社債のうち、償還期限が決算期後1年を超えて到来するもの、または到来すると認められるものを記載します。
(決算書の表示例=社債) - 長期借入金
流動負債に記載された短期借入金以外の借入金を記載します。
(決算書の表示例=長期借入金、証書借入、役員借入金) - リース債務
ファイナンス・リース取引におけるもので、流動負債に属するもの以外を記載します。
(決算書の表示例=リース債務、長期リース債務) - 繰延税金負債
法人税等の未払いの税金相当額を負債として記載します。
(決算書の表示例=繰延税金負債) - ・・・引当金
退職給付引当金のように、1年以上先の長期的な支出を見込んだ引当金として認められるものを記載します。
(決算書の表示例=退職給付引当金) - 負ののれん
合併、事業譲渡等により取得した事業の取得原価が、取得した資産および引き受けた負債に配分された総額を下回る場合の不足額を記載します。
(決算書の表示例=負ののれん) - その他
長期未払金等、支払期間が1年を超える負債で、他の固定負債科目に属さないものを記載します。
(決算書の表示例=長期未払金、長期前受金、長期預り金)
- 社債
純資産の部
- 株主資本
- (1) 資本金
期末時点における資本金額を記載します。
設立または株式の発行に際して払込みまたは給付を受けた財産に加え、資本準備金や利益剰余金から振り替えた資金の合計です。 - (2) 新株式申込証拠金
新たに株式を発行する際に、その株式を取得する者が新株式の対価を支払ったが、決算期末時点では払込期日を迎えていないため、資本金とは区別して記載します。 - (3) 資本剰余金
- 資本準備金
会社が将来に備えるために積み立てる資金で、会社が株式を発行した際に、株主が払い込んだ新株式の対価のうち資本金に組み入れなかった資金や、その他資本剰余金から組み入れることで計上されるものを記載します。資本金の2分の1を超えない額まで計上することができます。 - その他資本剰余金
資本剰余金のうち、資本金および資本準備金の取崩しによって生ずる剰余金や自己株式の処分差益など、資本準備金以外のものを記載します。
- 資本準備金
- (4) 利益剰余金
- 利益準備金
株主に対して配当を行う際に、会社法により義務付けられている準備金のことで、配当により減少する剰余金の額の10%を資本準備金または利益準備金として計上することとされているのをを記載します。 - その他利益剰余金
株主総会または取締役会の決議により、会社が任意に設定する準備金や積立金を記載します。
(決算書の表示例=別途積立金、固定資産圧縮積立金) - 繰越利益剰余金
利益剰余金のうち、利益準備金および・・・準備金(積立金)以外のものを記載します。
- 利益準備金
- (5) 自己株式
会社が所有する自社の発行済株式を記載します。 - (6) 自己株式申込証拠金
申込期日から払込期日の前日までに、自己株式の処分の対価相当額を受領したが、いまだ自己株式の処分の認識が行われていない金額の額を記載します。
- (1) 資本金
- 評価・換算差額等
- (1) その他有価証券評価差額金
「その他有価証券」について、時価により評価替えすることにより生じた評価損益から税効果相当額を控除した残額を記載します。 - (2) 繰越ヘッジ損益
繰延ヘッジ処理が適用される先物取引やオプション取引等のデリバティブ取引は、期末で時価評価を行うことになっているため、その他取得価額と時価評価の差額を翌期以降に繰り延べるときに記載します。 - (3) 土地再評価差額金
一定の要件の下で、事業用の土地の価格を再評価し、その評価益(または評価損)を計上することを認めたものを記載します。
- (1) その他有価証券評価差額金
- 新株予約権
株式会社に対して行使することで、当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利から自己株式予約権の額を控除した残額を記載します。
2.貸借対照表の5%ルールとは
「貸借対照表の5%ルール」と言うのをご存じでしょうか?
貸借対照表の様式にセットになっている「記載要領」を読めば書かれています。
『貸借対照表』の記載要領には、以下のように記載されています。
『貸借対照表』の記載要領
- 建設業以外の事業を併せて営む場合においては、当該事業の営業取引に係る資産についてその内容を示す適当な科目をもって記載すること。ただし、当該資産の金額が資産の総額の100分の5以下のものについては、同一の性格の科目に含めて記載することができる。
- 流動資産の「有価証券」又は「その他」に属する親会社株式の金額が資産の総額の100分の5を超えるときは、「親会社株式」の科目をもって記載すること。投資その他の資産の「関係会社株式・関係会社出資金」に属する親会社株式についても同様に、投資その他の資産に「親会社株式」の科目をもって記載すること。
- 流動資産、有形固定資産、無形固定資産又は投資その他の資産の「その他」に属する資産でその金額が資産の総額の100分の5を超えるものについては、当該資産を明示する科目をもって記載すること。
- 記載要領6及び8は、負債の部の記載に準用する。
- 「材料貯蔵品」、「短期貸付金」、「前払費用」、「特許権」、「借地権」及び「のれん」は、その金額が資産の総額の100分の5以下であるときは、それぞれ流動資産の「その他」、無形固定資産の「その他」に含めて記載することができる。
- 記載要領10は、「未払金」、「未払費用」、「預り金」、「前受収益」及び「負ののれん」の表示に準用する。
貸借対照表に記載する各科目の金額が、総資産の5%を超える場合は、「その他」としてまとめずに、個別に記載することを求めています。
少し読みにくい記載要領だけど、各様式には記載要領がセットになっているので、きちんと読みましょう。