建設業の許可申請・経審で使う財務諸表の全書類を解説!
建設業を営む皆さんにとって、会社の「お財布事情」や「健康状態」を映し出す財務諸表は、実は事業を続ける上で欠かせない大切な書類です。
特に、建設業許可の取得や更新、そして公共工事の入札参加に必要な経営事項審査(経審)では、これらの書類が会社の財政状況を証明する大切な証拠となります。
「たくさんの書類があって、どれがどれだか…」と感じるかもしれませんが、大丈夫です!
今回は、建設業許可や経審で提出が求められる主要な財務諸表の書類を一つずつ、その役割とポイントを丁寧に見ていきましょう。
1.会社の財産と借金がわかる「貸借対照表」
貸借対照表は、会社のある一時点(通常は決算日)における財政状態を示す書類です。
バランスシート(B/S)とも呼ばれ、会社の「健康診断書」のようなものとイメージしてください。
何がわかるの?
- 資産(左側):会社が持っている現金、預金、土地、建物、重機、売掛金などの「財産」がわかります。
- 負債(右側上部):銀行からの借入金、買掛金、未払金など、会社が将来支払うべき「借金」がわかります。
- 純資産(右側下部):会社の「自己資本」、つまり返済義務のない、会社に元々あるお金(資本金や利益の蓄積)がわかります。
建設業でのポイント
- 「完成工事未収入金」:一般企業の「売掛金」に相当し、工事は終わったけれどまだ代金を受け取っていない金額です。
- 「未成工事支出金」:まだ完成していない工事に、すでに使った材料費や労務費などの費用です。これは将来の売上につながる「仕掛品」のようなものです。
- 「繰越利益剰余金」:会社の利益の積み重ねを示し、ここがマイナスだと「債務超過」という状態になり、建設業許可の財務要件を満たせない可能性があります。経審でも評価が下がります。

貸借対照表は、会社の安定性を判断するために非常に重要な書類です。
2.会社の儲けがわかる「損益計算書及び完成工事原価報告書」
損益計算書は、会社が一定期間(通常は1年間)にどれくらい儲かったかを示す書類です。
プロフィット・アンド・ロス・ステートメント(P/L)とも呼ばれ、会社の「成績表」のようなものです。建設業では、通常「完成工事原価報告書」と一体で作成されます。
何がわかるの?
- 完成工事高:建設工事によって得られた売上総額です。経審での「完成工事高」の評価に直結します。
- 完成工事原価:その売上を得るために直接かかった費用(材料費、労務費、外注費、その他経費)です。この詳細が「完成工事原価報告書」に記載されます。
- 完成工事総利益:完成工事高から完成工事原価を引いた、工事そのもので得られた基本的な儲け(粗利益)です。
- 販売費及び一般管理費:会社の運営にかかる費用(人件費、家賃、水道光熱費など)です。
- 営業利益:本業でどれだけ儲かったかを示す、最も重要な利益です。経審では、「営業利益」や「売上高総利益(粗利益)」も評価項目に含まれます。
- 税引前当期純利益、当期純利益:最終的に会社に残った利益です。
建設業でのポイント
- 「完成工事原価報告書」では、完成工事原価が「材料費」「労務費」「外注費」「経費」の4つに細かく分類され、報告が義務付けられています。これは、建設工事のコスト管理の重要性を示すものです。
- 経審では、この原価の内訳も詳細に確認され、適切な会計処理がされているかが問われます。

損益計算書と完成工事原価報告書は、会社の収益性や効率性を判断するために不可欠な書類です。
3.兼業がある場合に作成する「兼業事業売上原価報告書」
この書類は、建設業以外の事業(兼業事業)も行っている会社が、その兼業事業の売上や原価を報告するためのものです。
何がわかるの?
- 建設業とは別に営んでいる事業(例:不動産賃貸業、飲食業、物品販売業など)の売上高と、それにかかった原価を詳細に報告します。
- これを見ることで、会社の全体的な経営状況の中で、建設業と兼業事業のそれぞれがどのくらいの割合を占め、どれくらいの利益を出しているかがわかります。
建設業でのポイント
- 経営事項審査では、あくまで「建設業」としての実績が評価されます。
そのため、建設業と兼業事業の区別を明確にするために、この書類が必要となります。 - 経審においては、建設業の完成工事高や利益が評価対象となるため、兼業事業の数字が建設業の評価に混じらないよう、きちんと分離して報告することが求められます。
4.純資産の動きがわかる「株主資本等変動計算書」
この書類は、貸借対照表の「純資産の部」が、会計期間中にどのように変動したかを示すものです。主に株式会社で作成されます。(個人事業主の方は原則として作成しません。)
何がわかるの?
- 「資本金が増減したか」「利益準備金や繰越利益剰余金がどう変化したか」など、株主資本(自己資本)の内訳とその変動理由が細かくわかります。
- 具体的には、増資や減資、利益の配当、当期純利益の計上などがどのように純資産に影響を与えたかが示されます。
建設業でのポイント
- 建設業許可の財務要件で「自己資本の額」が問われる際に、この書類で純資産の内訳や、決算期間中の変動を確認することができます。
特に増資などを行った場合、その事実がこの計算書に反映されます。 - 経審でも自己資本額が評価項目となるため、その算出根拠を示す上で重要な書類です。

株主資本等変動計算書は、会社の資本状況の透明性を高め、株主(多くの場合、社長ご自身やご家族)への説明責任を果たす役割も持ちます。
5.財務諸表の補足説明「注記表」
注記表は、上記の主要な財務諸表だけでは伝えきれない、重要な会計処理の選択や、各科目の詳細な内訳、会社の状況に関する補足情報を記載するものです。
何がわかるの?
- 会社の重要な会計方針(例:工事完成基準と工事進行基準のどちらを採用しているか、固定資産の減価償却方法など)
- 会計方針の変更や、特別な事項(例:災害による損失など)
- 貸借対照表や損益計算書に記載された各科目の詳細(例:固定資産の内訳や減価償却費、借入金の内訳、引当金の種類など)
- 消費税の会計処理方法(税抜経理方式か税込経理方式か)
- 偶発債務(将来発生するかもしれない債務)など、決算書には載らないが重要な情報
建設業でのポイント
- 工事進行基準と工事完成基準のどちらを採用しているかは、経営事項審査の評価にも影響するため、非常に重要な情報です。
- 経営事項審査を受ける事業者の場合、原則として消費税は税抜方式で処理している旨が注記されます。(税込方式で計上されていると経審の評価が正しく出ないことがあります)
注記表は、財務諸表の数字の背景にあるルールや具体的な内訳を理解するために役立つ、いわば「説明書」のようなものです。
6.さらに詳しい明細情報「附属明細表」
附属明細表は、注記表でさらに詳しく記載しきれない、より具体的な明細情報が記載される書類です。
何がわかるの?
- 有形固定資産(重機や車両、土地、建物など)や無形固定資産(ソフトウェアなど)の取得・減価償却・期末残高の明細
- リース資産や投資有価証券の明細
- 引当金(退職給付引当金など)の明細
- 役員報酬や役員退職慰労金の明細など
建設業でのポイント
- 重機などの固定資産が多い建設業者さんにとっては、これらの明細で資産の状況を詳細に確認できます。
- この書類は、会社の規模や事業内容によって提出が義務付けられるかどうかが異なります。(例:資本金が1億円を超える大会社や、事業内容が複雑な会社に限定される場合が多いです。)
附属明細表は、財務諸表の信頼性と詳細性を高めるためのものです。
7.会社の概況を文章で報告する「事業報告書」
事業報告書は、これまでの財務諸表が数字で会社の状況を示すのに対し、会社の活動状況や経営成績、財産状況などを文章でまとめたものです。
特定の様式は定められておらず、会社ごとに自由に作成できます。
何がわかるの?
- 当期の事業内容の概況
- 経営成績および財産状況の推移
- 事業の課題や今後の見通し
- 株主や利害関係者への情報提供
建設業でのポイント
- 会社法に基づき、株式会社が作成する義務があります。
会社の状況をより詳細に説明したい場合や、金融機関に提出する際など、必要に応じて作成・活用されます。
事業報告書は、会社の「物語」を語る書類であり、数字だけでは伝わりにくい情報を補完する役割があります。
これらの財務諸表は、それぞれが異なる役割を持ちながらも、互いに連携して会社の全体像を映し出しています。
ご自身の会社の財務諸表を「読める」ようになることは、経営者として会社を強くしていくための大切な一歩です。
この情報が、あなたの事業の発展に少しでも貢献できれば幸いです。

