「この費用、含めていい?」 完成工事原価報告書の判断基準を行政書士が解説

建設業界で働く皆さんにとってとても大切な書類である「完成工事原価報告書」について、優しく、そして分かりやすくお話ししたいと思います。

この報告書は、単なる事務的な書類ではなく、皆さんの会社の「健康診断書」のようなもの。

特に皆さんが疑問に感じやすい「この費用は完成工事原価に含めていいの?」という判断基準を、優しく、そして分かりやすく解説していきますね。

この報告書は、皆さんが毎年提出する決算変更届の重要な一部なんですよ。

1.完成工事原価報告書って、どんな書類でしたっけ?

まず、簡単におさらいしましょう。

完成工事原価報告書とは、皆さんが完成させた工事にかかった「売上原価」を詳細にまとめた書類です。

売上原価は、主に材料費、労務費、外注費、経費などで構成され、これらを合計したものが「完成工事原価」となります。

「工事原価」と「完成工事原価」って、どう違うの?

建設業の会計では、工事の進捗に合わせて費用を計上していく、少し特別な方法が使われます。

この特殊性から、「工事原価」と「完成工事原価」という似たような言葉が生まれるんです。

  1. 「工事原価」:工事が「進んでいる途中」にかかった費用
    • 工事原価」とは、文字通り、現在進行中の工事(未完成の工事)にかかっている全ての費用を指します。

      皆さんが複数の工事を同時に進めていると想像してみてください。
      それぞれの工事で、材料を仕入れたり、職人さんにお給料を払ったり、重機を借りたりしていますよね?
      これらの、まだ終わっていない工事に投入された費用が「工事原価」なんです。

      会計上は、「未成工事支出金」という勘定科目で管理されることが多いです。
      これは、まだ完成していない工事に投じられた費用なので、「資産」として扱われます。
      将来、工事が完成して売上になったときに、この費用が「完成工事原価」に振り替えられる、という仕組みになっています。

      イメージ: 工事現場で、まだ壁ができていないけれど、基礎工事は終わった。その基礎工事までにかかった材料費や人件費などの費用。
       
  2. 「完成工事原価」:工事が「完成した」ときにかかった費用
    • 一方、「完成工事原価」とは、その名の通り、工事が全て終わり、お客様に引き渡された「完成した工事」にかかった全ての費用を指します。
       
      先ほどの「工事原価」として積み上がっていた費用は、工事が完成した時点で、この「完成工事原価」として計上されます。
      つまり、未成工事支出金として資産だったものが、工事の売上に対応する費用へと変わるわけです。
       
      この完成工事原価は、皆さんが決算変更届の際に提出する「完成工事原価報告書」に記載される、とても大切な数字です。
      そして、経営事項審査(経審)でも、この完成工事原価が、会社の収益性や経営状況を判断する上で重要な評価対象となります。
       
      イメージ: マンションが完成し、お客様に鍵が引き渡された。そのマンションを建てる最初から最後までにかかった全ての材料費、人件費、外注費などの合計費用。

2.工事原価を構成する主要な費用と、その正しい計上方法

完成工事原価は、主に以下の5つの要素で構成されています。それぞれの費用の正しい計上方法を見ていきましょう。

  1. 材料費:使用した材料を漏れなく、正確に!
    • 材料費」とは、工事に直接使われた全ての資材の費用のことです。
      例えば、木材、鉄骨、コンクリート、タイル、電線、パイプなど、建物や構造物を構成するために消費された材料がこれにあたります。
       
      正しい計上のポイント
      • 購入費だけでなく、付随費用も忘れずに!: 材料の購入代金だけでなく、その材料を現場まで運ぶための運搬費や、購入時にかかった手数料なども材料費に含めて計上します。
      • 棚卸資産の考え方: 期末にまだ使われずに倉庫にある材料(未成工事支出金として計上される部分)と、当期中に消費された材料を明確に区別することが重要です。一般的には、期首材料棚卸高 + 当期材料仕入高 - 期末材料棚卸高 = 当期材料費、という計算で求められます。
      • 工事ごとの紐付け: どの工事でどの材料が、どれくらい使われたのかを正確に把握できるよう、伝票や帳簿で細かく記録しておくことが大切です。
  2. 労務費:自社の職人さんの働きを正しく評価!
    • 労務費」とは、日雇いや日給月給の現場作業員の日当やアルバイト代など、工事に直接従事した従業員に支払われた賃金や手当のことです。
       
      正しい計上のポイント
      • 直接作業時間に基づく計算: 工事現場で実際に作業に従事した時間に対して支払われる賃金が労務費の対象です。残業手当や休日出勤手当なども含まれます。
      • 社会保険料などの法定福利費: 労務費には、賃金だけでなく、会社が負担する健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労働者災害補償保険料といった法定福利費も計上します。これらは労務費の一部として認識されるべき費用です。
      • 工事への配賦: 複数の工事を並行して行っている場合、それぞれの工事にどれくらいの労務が投入されたのかを、タイムシートなどを用いて正確に割り振ることが重要です。
    • 【ここが重要!】うち労務外注費との区別
      うち労務外注費」は、労務費の明細として記載されます。
      これは、工事現場で作業を行うために、期間契約で雇用した一人親方さんや、常用的な作業を請け負う外部の労働者に対して支払った費用を指します。
      あくまで「労務」を提供してもらう契約であり、請負契約とは異なります。

      ポイント
      • 自社の従業員ではないが、工事現場で労働力を提供してもらうケースで計上します。税法上の源泉徴収の要否など、区別が難しい場合があるので注意が必要です。
  3. 外注費:専門業者さんへのお願いを正しく計上!
    • 外注費」とは、自社では対応できない専門的な工事(例えば、電気設備工事、給排水設備工事、足場工事など)を、他の建設業者さんや専門業者さんに「請負契約」として依頼し、支払った費用のことです。
      「うち労務外注費」とは異なり、こちらは「仕事の完成」に対して支払う費用です。

      正しい計上のポイント
      • 「請負契約」であることの確認: 外注費は、相手が独立した事業者として特定の工事を完成させることを目的とした「請負契約」に基づいて支払われた費用です。労務提供の対価である「労務外注費」や「労務費」とは明確に区別しましょう。
      • 契約書・請求書の確認: 外注業者との契約書や、提出された請求書に基づいて正確に計上します。
      • 発注管理の徹底: どの工事のどの部分を、どの外注業者に依頼したのか、金額はいくらか、といった情報をきちんと管理しておくことが、後のトラブルを防ぎ、正確な計上に繋がります。
  4. 経費:その他の工事に直接必要な費用を計上!
    • 経費」とは、上記3つ(材料費、労務費、外注費)以外の、工事を完成させるために直接かかった費用のことです。
       
      正しい計上のポイント
      • 具体例
        • 機械器具等損料: 重機や建設機械のリース料、賃借料。
        • 運搬費: 材料や機材の運搬費用(材料費に含める場合は除く)。
        • 設計・測量費: 工事のための設計費や測量費。
        • 仮設費: 仮設事務所、仮設トイレ、仮設電力、仮設道路などの費用。
        • 水道光熱費: 現場で消費した水道、電気、ガスの費用。
        • 租税公課: 工事に直接関連する印紙税など。
        • 保険料: 工事保険料など。
        • その他: 現場消耗品費、通信費など、工事に直接関連する細かな費用。
      • 間接費との区別: 本社や営業所の家賃、総務や経理、営業部門の人の給料、広告宣伝費など、工事に直接結びつかない費用は「販管費及び一般管理費」として計上され、完成工事原価には含めません。この区別が非常に重要です。
         
        【ここが重要!】うち人件費(販管費等に含まれる人件費)との区別
        • うち人件費」は、現場の事務員、営業担当者、役員など、工事に直接関わらない従業員の人件費を指します。
          主任技術者や監理技術者、工事現場にかかわる現場代理人など、自社の正規職員全般の人件費になります。
           
          含めてはいけない費用: 工事現場に直接従事していない社員の人件費は、販売費及び一般管理費(販管費)として計上します。これを誤って工事原価に含めてしまうと、工事の利益が過大に見えてしまい、税務上も経審上も問題となる可能性があります。
  5. 完成工事原価:すべての「工事に関連する費用」の合計
    • 最終的に、上記の材料費、労務費(うち労務外注費含む)、外注費、経費(工事関連のもの)をすべて合計したものが、「完成工事原価」となります。
      この金額が、皆さんの会社の工事における「仕入れ値」のようなものであり、完成工事高からこの原価を差し引くことで「完成工事総利益」が算出されます。
完成工事原価報告書の例

3.最終確認!見落としがちな重要項目リスト

具体的にどのような項目を見落としがちで、何を最終確認すべきか、一緒に見ていきましょう。

  1. 「労務費」内の「法定福利費」は正しく計上されていますか?
    これは本当に見落としがちですが、非常に重要です!
    • 自社の職人さんや現場従業員の給料だけでなく、会社が負担する健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労働者災害補償保険料(労災保険料)などの「法定福利費」を、きちんと「労務費」に含めて計上していますか?
    • 法定福利費を労務費に含めないと、工事原価が過少になり、結果として利益が過大に計上されてしまいます。これは税務上も問題になりかねません。
       
  2. 「間接工事費」は漏れなく、適切に「配賦」されていますか?
    特定の工事に直接は紐づかないけれど、工事全体に間接的にかかる費用(間接工事費)は、計上漏れや、誤って「販管費」としてしまうケースが多いです。
    • 現場監督の給料、複数の現場で共用する重機のリース料や減価償却費、共通の現場事務所の費用、現場間の移動交通費など、間接的に工事にかかる費用を洗い出していますか?
    • それらの間接費を、合理的な基準(例:直接工事費の割合、工事時間など)に基づいて、各完成工事に「配賦(はいふ)」し、工事原価に含めていますか?
    • 間接費を漏らしてしまうと、工事原価が過少になり、実態よりも利益が高く見えてしまいます。これは正確な経営状況の把握を妨げ、経審の評価に影響を与える可能性があります。
       
  3. 「外注費」と「労務外注費」の区分は明確ですか?
    特に一人親方さんなどへの支払いは、「外注費」と「労務外注費」のどちらに計上すべきか迷いやすい点です。
    • 相手が「仕事の完成」を目的とした請負契約で、独立した事業者として作業を行っている場合は「外注費」としていますか?
    • 一方、特定の期間、自社の指揮命令下で「労働力」を提供してもらっている場合は「労務費(うち労務外注費)」としていますか?
    • この区分は、消費税の課税仕入れの判断や、源泉徴収の要否など、税務上の扱いに大きく影響します。誤った区分は、税務調査で指摘を受けるリスクを高めます。
       
  4. 「未成工事支出金」と「完成工事原価」の振り替えは正確ですか?
    期中に発生した工事費用は、まず「未成工事支出金」(資産)として計上されますが、工事が完成した時点で「完成工事原価」(費用)に振り替えられます。
    • 会計期間中に完成した全ての工事について、未成工事支出金から完成工事原価への振り替えを漏れなく行っていますか?
    • 期末時点で未完成の工事にかかっている費用は、正しく未成工事支出金として残っていますか?
    • 振り替えが漏れると、完成した工事の費用が正しく計上されず、利益が過大に計上されたり、翌期の利益に影響が出たりするなど、正確な経営状況が把握できなくなります。
    • 税務上も、費用の計上時期を誤ることで、課税所得に影響が出ます。
       
  5. 計上基準は「工事完成基準」ですか?
    建設業の会計では、原則として工事が完成し、引き渡された時点で売上と原価を計上する「工事完成基準」が適用されます。
    • 会計期間中に完成・引き渡しが完了した工事の費用のみを「完成工事原価」として計上していますか?
    • まだ完成していない進行中の工事にかかっている費用を、誤って「完成工事原価」に含めていませんか?(それは「未成工事支出金」として残すべき費用です)
    • この基準を誤ると、売上と原価の計上時期がずれ、正確な期間損益が把握できなくなります。これは税務上も経審上も、非常に大きな問題となります。
       
  6. 「人件費」の項目が抜け落ちた決算書を、そのまま単に転記していませんか?
    • 「うち人件費」の金額がゼロの場合、建設業法違反を疑われる可能性があります。
      建設業法では、主任技術者または監理技術者を現場に配置することが義務づけられています。
      それなのに「うち人件費」がゼロだとすると、配置義務を怠っているということになります。
    • 「労務費」と「うち人件費」の両方がゼロの場合、「人件費」が全くかかっていないことになります。もちろん建設業法違反を疑われる可能性があります。
    • 対応として損益計算書の「従業員給料手当」から、現場にかかわる「人件費」を抜き出す必要があります。
      しかし経理でも現場でも作業をしている場合、明確に区分けすることができません。
      その場合はおおまかでも費やした時間を把握し、現場の作業時間と現場以外の作業時間で区分けします。
      そして現場の作業時間を、「うち人件費」へ計上する作業が発生します。
      その場合、「従業員給料手当」から「うち人件費」に金額を振り返ることになるため、損益計算書の売上総利益は決算書と決算変更届ではズレが発生しますが致し方ないことになります。
       
  7. 決算書に原価が表示されておらず、単に決算変更届への転記していませんか?
    • 「材料費」「労務費」「経費」の全てがゼロで、「外注費」のみ計上している場合、建設業法の「工事の一括下請負(工事の丸投げ)」が疑われます。
      「材料費」は発注者や元請が支給することもあるため、材料費がかからない工事はあり得ます。
      しかし現場での「経費」が、一切かからない工事というのはあり得ません。
      その場合は、損益計算書の「販売費及び一般管理費」から、「工事原価」に振り返る必要があります。
      税理士としては、区分けしなくても払う税金の額は変わらないため、特段区分けしないこともあります。
完成工事原価報告書の人件費の例

完成工事原価報告書は、単なる過去の数字の羅列ではありません。

そこには、皆さんの会社の経営状況、ひいては未来の経営をより良くするためのヒントが詰まっています。

この報告書を深く読み解き、課題を発見し、具体的な解決策を実行していくことで、皆さんの会社はより強く、安定した経営体質を築くことができるでしょう。

この情報が、あなたの事業の発展に少しでも貢献できれば幸いです。