決算変更届の完成工事原価報告書のつくり方

建設業法には毎年提出が義務づけられている、『決算変更届』と呼ばれる書類があります。

その中に『完成工事原価報告書』と呼ばれる書類がありますが、税理士が作成した決算書を単に転記されていませんか?

建設業法の知識なく作成されますと、建設業法違反を疑われる書類を作成し提出してしまう可能性があります。

この記事では、『完成工事原価報告書』の作成ポイントをまとめています。

1.完成工事原価報告書(様式第16号)の勘定科目

『完成工事原価報告書』とは、事業年度中に完成した工事の原価である材料費、労務費、外注費、経費の内訳を明らかにする書類になります。

ようするに『損益計算書』の完成工事原価の内訳を報告する書類になります。

作成方法は、会社の決算書の『製造原価報告書』を参考に作成します。
『製造原価報告書』には、未成工事にかかる材料費、労務費、外注費、経費も加算した原価の合計を「期末仕掛品」として別途記載しています。

「期末仕掛品」とは、会計期間の末日(期末)において、まだ完成していない工事にかかった費用のことだよ。

『完成工事原価報告書』では、完成した工事の金額のみを記載します。
そのため未成工事にかかったものは除外する作業が必要となります。

『完成工事原価報告書』の書き方例は、以下のようになります。

完成工事原価報告書の例
  • Ⅰ 材 料 費
    工事のために直接購入した素材、半製品、製品、材料貯蔵品勘定などから振り返られた材料費を記載します。
    (決算書の表示例=材料費、仮設材料消耗品費)
  • Ⅱ 労 務 費
    工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料及び手当などを記載します。

    労務費のうち、工種・工程別などの工事の完成を約する契約で、その大部分が労務費であるものを「うち労務外注費」として内書きすることになっています。
    (決算書の表示例=労務費、賃金、雑給、労務外注費)
  • Ⅲ 外 注 費
    工種・工程別などの工事について素材、半製品、製品などを作業と共に提供し、これに完成することを約する契約に基づく支払い額を記載します。労務費に含めたものは除きます。
    (決算書の表示例=外注費、加工費)
  • Ⅳ 経   費
    完成工事について発生し、または負担すべき材料費、労務費および外注費以外の費用。
    完成工事補償引当金繰入額などのように、共通原価として一括計上されるものがあります。

    ※完成工事補償引当金繰入とは、完成した工事に関し、将来発生する可能性のある保証費用をあらかじめ見積もり、その費用を準備しておくための会計処理のことを指します。建物に不具合が発生した場合、建設会社は修理や再施工を行う必要があります。この費用をまかなうために、完成工事補償引当金が設けられています。

    工事に従事する正社員などにたいする給料手当、賞与および賞与引当金、法定福利費ならびに福利厚生費などを「うち人件費」として内書きすることになっています。
    (決算書の表示例=動力用水光熱費、機械等経費、減価償却費、設計費、租税公課、地代家賃、保険料、修繕費、事務用品費、通信費、旅費交通費、交際費、賃借料、借地料、家賃、地代家賃、残土処理費、産廃処理費、現場経費、従業員給料手当、従業員賞与、退職金、法定福利費、福利厚生費)

2.完成原価報告書の人件費の考え方

『完成工事原価報告書』では、現場に出る人と、現場に出ない人の人件費を分けて考えます。

現場に出ない人は事務員などが対象になりますが、その方たちは「うち人件費」に該当します。

現場に出る人は、「うち人件費」と「労務費」に分かれます。

「うち人件費」は、工事部門の正規従業員に対する給料に該当します。
主任技術者や監理技術者、工事現場にかかわる現場代理人など、自社の正規職員全般の人件費になります。

「労務費」は、日雇いや日給月給の現場作業員の日当やアルバイト代です。
現場限りを前提として雇用契約で従事した作業員に対する賃金、給料、および手当などが該当します。

完成工事原価報告書の人件費の例

「うち人件費」の金額がゼロの場合、建設業法違反を疑われる可能性があります。

建設業法では、主任技術者または監理技術者を現場に配置することが義務づけられています。
それなのに「うち人件費」がゼロだとすると、配置義務を怠っているということになります。

指示処分や、営業停止処分になるのは嫌だよ~。

「労務費」と「うち人件費」の両方がゼロの場合、「人件費」が全くかかっていないことになります。
「人件費」の項目が抜け落ちた決算書を、そのまま単に転記していると考えられます。
もちろん建設業法違反を疑われる可能性があります。

対応として損益計算書の「従業員給料手当」から、現場にかかわる「人件費」を抜き出す必要があります。

しかし経理でも現場でも作業をしている場合、明確に区分けすることができません。
その場合はおおまかでも費やした時間を把握し、現場の作業時間と現場以外の作業時間で区分けします。
そして現場の作業時間を、「うち人件費」へ計上する作業が発生します。

その場合、「従業員給料手当」から「うち人件費」に金額を振り返ることになるため、損益計算書の売上総利益は決算書と決算変更届ではズレが発生しますが致し方ないことになります。

決算書と決算変更届は、別モノと認識しておくのだ。

「材料費」「労務費」「経費」の全てがゼロで、「外注費」のみ計上している場合、建設業法の「工事の一括下請負(工事の丸投げ)」が疑われます。

「材料費」は発注者や元請が支給することもあるため、材料費がかからない工事はあり得ます。
しかし現場での「経費」が、一切かからない工事というのはあり得ません。

発注者保護の建設業法の目的に鑑みて、工事の丸投げは発注者の信頼を裏切る行為になります。
そのため営業停止処分という重い処分が科されています。

決算書に原価が表示されておらず、単に決算変更届への転記のみしているのが原因かと思われます。
その場合は、損益計算書の「販売費及び一般管理費」から、「工事原価」に振り返る必要があります。

決算書の段階で、「工事原価」と「販売費及び一般管理費」を区分けしておいてほしいところです。
税理士としては、区分けしなくても払う税金の額は変わらないため、特段区分けしないこともあります。

単に転記するのではなく、決算書を翻訳する作業が必要なんだね!