決算変更届の損益計算書のつくり方

建設業法には毎年提出が義務づけられている、『決算変更届』と呼ばれる書類があります。

その中に『損益計算書』と呼ばれる書類がありますが、税理士が作成した決算書から建設業法に適した形式で翻訳作業が必要とします。

この記事では、『損益計算書』の作成ポイントをまとめています。

1.損益計算書(様式第16号)の記載項目

『損益計算書』は、会社の経営成績を示す書類です。
お金を調達、運用、収益、費用を要し、結果として利益がいくら残るのかを表しています。

『損益計算書』は、「報告式」で記載されており、見慣れない方には見ずらいかと思います。

「報告式」とは、企業の収益と費用を一列で表示させる形式です。
企業の1年間の成績表のようなもので、企業の収益力や経営効率を評価する上で非常に重要な情報源となります。

『損益計算書』の書き方例は、以下のようになります。
青字の項目は、大阪府の様式にはない項目で追加しています。

損益計算書
  1. 売上高
    • 完成工事高
      工事完成基準で、当期に完成した工事を計上します。
      工事進行基準で当期中の出来高相当額として進捗割合をかけて計上します。
      「直前3年の各事業年度における工事施工金額」の該当年度の合計額と一致します。
    • 兼業事業売上高
      建設業以外の事業による売上高を記載します。
  2. 売上原価
    • 完成工事原価
      「完成工事高」として計上した売上に対する工事原価を記載します。
      工事原価とは、建設工事を行う上でかかった全ての費用を指します。
      工事原価を構成する4要素は、材料費、労務費、経費、外注費です。
      『完成工事原価報告書』の「完成工事原価」と一致します。
    • 兼業事業売上原価
      「兼業事業売上高」として計上した売上に対する兼業事業の原価を記載します。
      『兼業事業売上原価報告書』の「兼業事業売上原価」と一致します。
    • 売上総利益(売上総損失)
      完成工事総利益と兼業事業総利益に分けて記載します。
      各売上高から売上原価を引いて計算します。
  3. 販売費及び一般管理費
    • 役員報酬 → 取締役、執行役、会計参与または監査役に対する報酬を記載します。経営業務の管理責任者は常勤の役員として勤務していると考えられるため、役員報酬がゼロというのは、経営業務の管理責任者がいないと疑われる可能性があります。
      (決算書の表示例=役員報酬、役員賞与、役員賞与引当金)
    • 従業員給料手当 → 管理部門、間接部門の業務に従事する従業員などにたいする給料、手当、賞与を記載します。工事に関わらず、現場にでない人が対象です。
      (決算書の表示例=給料手当、賞与、賞与引当金繰入)
    • 退職金 → 役員および従業員にたいする退職金、退職給与引当金および退職年金掛金を記載します。
      (決算書の表示例=退職金、退職引当金繰入額、建退共証紙購入費)
    • 法定福利費 → 役員および管理部門、間接部門の業務に従事する従業員に対する健康保険、厚生年金保険、雇用保険および労災保険などの保険料の事業主負担額を記載します。
      (決算書の表示例=法定福利費)
    • 福利厚生費 → 慰安娯楽、貸与被服、医療、慶弔見舞等の福利厚生に要する費用を記載します。
      (決算書の表示例=福利厚生費)
    • 修繕維持費 → 建物、車両、機械や装置などの修繕維持費を記載します。
      (決算書の表示例=修繕費、修繕維持費)
    • 事務用品費 → 事務用消耗品費、固定資産に計上しない事務用備品費、新聞、参考図書などの購入費を記載します。
      (決算書の表示例=事務用品費、新聞図書費)
    • 通信交通費 → 通信費、旅費交通費を記載します。
      (決算書の表示例=通信費、交通費)
    • 動力用水光熱費 → 電気、ガス、水道料金の費用を記載します。
      (決算書の表示例=水道代、電気代、ガス代)
    • 調査研究費 → 技術研究、技術開発などの費用を記載します。
      (決算書の表示例=調査研究費)
    • 広告宣伝費 → 広告や宣伝の費用を記載します。
      (決算書の表示例=広告宣伝費)
    • 貸倒引当金繰入額 → 営業取引に基づいて発生した受取手形、完成工事未収入金などの債権に対する貸倒引当金繰入額を記載します。企業が将来発生する可能性のある貸倒損失に備えるために、事前に費用として計上します。
      (決算書の表示例=貸倒引当金繰入額)
    • 貸倒損失 → 営業取引に基づいて発生した受取手形、完成工事未収金などの債権にたいする貸倒損失を記載します。
      (決算書の表示例=貸倒損失)
    • 交際費 → 得意先や士業などの接待費、慶弔費およびお中元やお歳暮の贈答品代を記載します。
      (決算書の表示例=接待交際費、慶弔費)
    • 寄付金 → 国、地方公共団体、社会福祉法人や公益社団法人などへの寄付を記載します。
      (決算書の表示例=寄付金)
    • 地代家賃 → 事務所、寮、社宅などの地代および借地料を記載します。
      (決算書の表示例=地代、家賃、賃借料)
    • 減価償却費 → 管理部門、間接部門に属する固定資産についての減価償却実施額を記載します。工事で使用される機械や車両は、工事原価の経費に記載します。
      (決算書の表示例=減価償却費)
    • 開発費償却 → 貸借対照表の「繰延資産」計上した「開発費」の償却額を記載します。
      (決算書の表示例=開発償却費)
    • 租税公課 → 事務所税、消費税、不動産取得税、固定資産税、自動車税、収入印紙代などの租税および道路占用料などの公課を記載します。
      (決算書の表示例=租税公課、消費税)
    • 保険料 → 傷害保険、火災保険、第三者賠償保険や盗難保険などの損害保険料を記載します。
      (決算書の表示例=支払保険料、損害保険料)
    • 雑 費 → 車内外の打ち合わせや会議の費用、組合などの諸団体会費、荷造運賃など、他の販売費及び一般管理費の科目に属さない費用を記載します。
      (決算書の表示例=支払手数料、諸会費、消耗品費、リース料、顧問料、車両費、雑費)
  4. 営業外収益
    • 受取利息配当金 → 金融機関の預金利息および貸付金などに対する受取利息と、公社債などの有価証券利息と、保有している株式の配当金を記載します。
      (決算書の表示例=受取利息、受取配当金、有価証券利息)
    • その他 → 売買目的株式や公社債等の売却による有価証券売却益や本業以外で家賃収入がある場合の受取家賃など、「受取利息配当金」以外の営業外収益を記載します。
      (決算書の表示例=有価証券売却益、受取家賃、雑収入)
  5. 営業外費用
    • 支払利息 → 金融機関などからの借入金に対する利息のほか、社債および新株予約権付社債の支払利息を記載します。
      (決算書の表示例=支払利息、社債利息)
    • 貸倒引当金繰入額 → 営業取引以外の取引に基づいて発生した貸付金などの債権に対する貸倒引当金繰入額を記載します。営業取引に基づくものは販売費及び一般管理費に含めます。
      (決算書の表示例=貸倒引当金繰入額)
    • 貸倒損失 → 営業取引以外の取引に基づいて発生した貸付金などの債権に対する貸倒損失を記載します。営業取引に基づくものは販売費及び一般管理費に含めます。
      (決算書の表示例=貸倒損失)
    • その他 → 支払利息、貸倒引当金繰入額および貸倒損失以外の営業費用で、開発費以外の繰延資産の償却額や売買目的の株式、公社債等の売却により損失のほか、手形売却損や雑損失を記載します。
      (決算書の表示例=開業費償却、社債発行費償却、有価証券売却損、雑損失)
  6. 特別利益
    • 前期損益修正益 → 前期以前に計上された損益の修正による利益を記載します。
      (決算書の表示例=前期損失修正益)
    • その他 → 固定資産売却益、当期有価証券売却益、財産受増益など、特別な要因で臨時に発生した利益を記載します。
      (決算書の表示例=固定資産売却益、資産受贈益、貸倒引当金戻入)
  7. 特別損失
    • 前期損益修正損 → 前期以前に計上された損益の修正による損失を記載します。
      (決算書の表示例=前期損益修正損)
    • その他 → 固定資産売却損、除却損、当期有価証券売却損、災害損失など、特別な要因で臨時に発生した損失を記載します。
      (決算書の表示例=固定資産売却損・除却損、損害賠償金)
    • 法人税、住民税及び事業税 → 当該事業年度の税引前当期純利益に対する法人税などの額を記載します。
      (決算書の表示例=法人税・住民税、事業税、追徴税額、還付金)
    • 法人税等調整額 → 税効果会計の適用により税法上の課税所得から計算される法人税等の額と、会計上の利益から計算される法人税等の額との間に生じた期間的な差異を調整した額を記載します。
      (決算書の表示例=法人税等調整額)

2.損益計算書の10%ルールとは

「損益計算書の10%ルール」と言うのをご存じでしょうか?
損益計算書の様式にセットになっている「記載要領」を読めば書かれています。

『損益計算書』の記載要領には、以下のように記載されています。

  1. 「雑費」に属する費用で「販売費及び一般管理費」の総額の10分の1を超えるものについては、それぞれ当該費用を明示する科目を用いて掲記すること。
  2. 記載要領6は、営業外収益の「その他」に属する収益及び営業外費用の「その他」に属する費用の記載に準用する。
  3. 「前期損益修正益」の金額が重要でない場合においては、特別利益の「その他」に含めて記載することができる。
  4. 特別利益の「その他」については、それぞれ当該利益を明示する科目を用いて掲記すること。ただし、各利益のうち、その金額が重要でないものについては、当該利益を区分掲記しないことができる。
  5. 「特別利益」に属する科目の掲記が「その他」のみである場合においては、科目の記載を要しない。
  6. 記載要領8は「前期損益修正損」の記載に、記載要領9は特別損失の「その他」の記載に、記載要領10は「特別損失」に属する科目の記載にそれぞれ準用すること。
『損益計算書』の記載要領

損益計算書に記載する各科目の金額が、各科目(Ⅲ~Ⅶ)の合計額の10%を超える場合は、「雑費」や「その他」としてまとめずに、個別に記載することを求めています。

「特別利益」と「特別損失」は、「金額が重要でないものについては、当該利益を区分掲記しないことができる」とあります。
「金額が重要でないもの」とは何でしょうか?

『財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則』にて、以下のとおり記載されています。

  • (特別利益の表示方法)
    第九十五条の二
    特別利益に属する利益は、固定資産売却益、負ののれん発生益その他の項目の区分に従い、当該利益を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。ただし、各利益のうち、その金額が特別利益の総額の百分の十以下のもので一括して表示することが適当であると認められるものについては、当該利益を一括して示す名称を付した科目をもつて掲記することができる。
  • (特別損失の表示方法)
    第九十五条の三
    特別損失に属する損失は、固定資産売却損、減損損失、災害による損失その他の項目の区分に従い、当該損失を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。ただし、各損失のうち、その金額が特別損失の総額の百分の十以下のもので一括して表示することが適当であると認められるものについては、当該損失を一括して示す名称を付した科目をもつて掲記することができる。
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和三十八年大蔵省令第五十九号)

「総額の百分の十以下のもので一括して表示することが適当であると認められるもの」と書かれています。

この規定により「特別利益」と「特別損失」も同様に、合計額の10%を超える場合は「その他」としてまとめずに、個別に記載することを求めていると考えられます。

各様式には記載要領がセットになっているので、きちんと読まないといけないね。