なぜ株主資本等変動計算書が必要? 貸借対照表だけでは見えない情報

皆さんの会社にとって大切な書類の一つ、「株主資本等変動計算書

なぜこの書類が必要なのか、そして「貸借対照表だけでは見えない、どんな大切な情報が隠されているのか」を、分かりやすく解説していきますね。

「また難しい名前の書類」と感じるかもしれませんが、ご安心ください。

この書類を理解することで、会社の「体質」や「成長の裏側」が、ぐっとクリアに見えてくるはずですよ!

1.貸借対照表だけではわからない「純資産の動き」

まず、皆さんがよくご存じの貸借対照表について少し触れておきましょう。

貸借対照表は、ある一時点(例えば決算日)における会社の財政状態、つまり「会社がどんな財産を持っていて、その元手はどこから来たのか」を示す「スナップ写真」のようなものです。

特に、会社の返済不要な自己資金を示す「純資産の部」は、会社の体力や安定性を示す大切な情報です。

しかし、貸借対照表の「純資産の部」を見ても、期末時点の最終的な金額しか分かりません。

「この純資産、どうやって増えたんだろう?」

「利益が出たはずなのに、純資産が思ったより伸びていないのはなぜ?」

「資本金が増えたのは、株主が出資してくれたから?それとも別の理由?」

このような「純資産が動いた原因」や「変動の背景にあるストーリー」は、貸借対照表だけでは見えてこないんです。

だから「株主資本等変動計算書」が必要なんです!

ここで登場するのが、株主資本等変動計算書です。

この書類は、貸借対照表の「純資産の部」が、ある一定期間(通常は1年間)に、どのような原因で、いくら増減したのかを詳細に示してくれる「純資産の動きの記録」なんです。

例えるなら、貸借対照表が「体重の測定値」だとすると、株主資本等変動計算書は「体重がなぜ増減したのか(食生活、運動、病気など)の内訳」を示してくれるようなものです。

2.貸借対照表だけでは見えない!株主資本等変動計算書から読み取る情報

では、具体的に株主資本等変動計算書を見ることで、貸借対照表だけでは分からなかったどんな大切な情報が見えてくるのでしょうか?

1.会社の「利益の蓄積状況」と「配当方針」がわかる!

貸借対照表の「純資産の部」には「利益剰余金」という項目があります。

これは会社が過去に稼いできた利益の蓄積額です。

  • 貸借対照表だけの場合
    • 期末時点の利益剰余金の金額は分かります。
  • 株主資本等変動計算書を見る場合
    • 当期純利益(その期に会社が稼いだ最終的な儲け)が、利益剰余金にどれだけ加算されたか分かります。
    • 会社が株主へ支払った配当金が、利益剰余金からどれだけ差し引かれたか分かります。
  • 読み取れる情報
    • 会社が稼いだ利益を、どれくらい「内部留保」として会社に蓄積しているのか、それとも「株主への配当」に回しているのか、その方針と実態が明確になります。
    • 利益が出ていても配当が多すぎると、利益剰余金が思ったほど積み上がらない理由が分かります。これは、会社の体力(自己資金)がどれだけ増えているかを判断する上で非常に重要です。

2.会社の「資金調達戦略」と「資本政策」がわかる!

貸借対照表の「純資産の部」には「資本金」という項目があります。

これは株主からの出資金です。

  • 貸借対照表だけの場合
    • 期末時点の資本金の金額は分かります。
  • 株主資本等変動計算書を見る場合
    • 新規の株式発行(増資)によって、どれだけ資本金が増えたか分かります。
    • 役員借入金などの「負債」を「資本金」に振り替える「デット・エクイティ・スワップ(DES)」が行われたかどうかも分かります。
    • 会社が自社の株式を買い戻した(自己株式の取得)かどうか、その金額も分かります。
  • 読み取れる情報
    • 会社が事業拡大や財務体質強化のために、外部からどのように資金を調達したか(借入に頼ったのか、株主からの出資を受けたのか)が見えてきます。
    • 増資は、会社の自己資本比率を向上させ、財務の安定性を高める重要な戦略です。DESも同様の効果があります。これらの動きは、建設業許可の財産的基礎要件や、経審のY点(経営状況)に大きく影響するため、非常に大切な情報となります。

3.「含み損益」が純資産に与える影響がわかる!

会社が保有する株式などの有価証券の評価額の変動も、純資産に影響を与えます。

  • 貸借対照表だけの場合
    • 「その他有価証券評価差額金」といった科目の最終的な金額しか分かりません。
  • 株主資本等変動計算書を見る場合
    • その期に、保有する有価証券の時価変動によって、純資産がどれだけ増減したか(含み益や含み損の増減)が分かります。
  • 読み取れる情報
    • 本業以外の投資が、会社の財産にどれくらい影響を与えているかが見えてきます。大きな変動がある場合は、投資戦略の見直しを検討するきっかけになります。

3.税務申告の決算書から建設業財務諸表への変換方法

税務申告のために作成する株主資本等変動計算書は、会社の基本的な純資産の変動を示すものですが、建設業で提出する「建設業財務諸表」の一部としての株主資本等変動計算書は、その項目や表示形式が少し異なる場合があります。

なぜ変換が必要なの? 税務申告用と建設業財務諸表の違い

「同じ会社の株主資本等変動計算書なのに、なぜわざわざ変換が必要なの?」と思われるかもしれませんね。主な理由は以下の2点です。

  1. 経審での統一フォーマット: 経営事項審査(経審)では、全国一律の基準で評価を行うため、提出される財務諸表(貸借対照表、損益計算書、完成工事原価報告書、そして株主資本等変動計算書など)に統一されたフォーマットが定められています。税務申告用の書類は、必ずしもこのフォーマットに完全に合致しているわけではありません。
  2. 特定の情報の明確化: 経審の評価項目(特にY点:経営状況)に直接影響する「利益剰余金」や「資本金」といった純資産の変動要因が、審査機関にとって分かりやすい形で表示されていることが求められます。

簡単に言えば、税務申告用の株主資本等変動計算書は「一般的な純資産の動きの記録」ですが、建設業財務諸表のそれは「建設業者さん専用の純資産の変動記録」といったイメージです。

それでは、具体的にどのように変換していくのか、主要なポイントを解説します。

ステップ1:税務申告用の株主資本等変動計算書を手元に用意する

まずは、税務申告のために税理士さんが作成した、または自社で作成した最新の株主資本等変動計算書(法人税申告書に添付されているものなど)を用意してください。これが、変換の元となる「原データ」です。

ステップ2:各項目を建設業財務諸表のフォーマットに合わせる

株主資本等変動計算書は、貸借対照表や損益計算書に比べると、勘定科目の名称や内容の大きな変更は少ない傾向にあります。

しかし、表示の仕方や科目の詳細を、建設業用のフォーマットに合わせる作業が必要です。

  • ① 「当期純利益(損失)」の確認
    • 税務申告用での表示: 「当期純利益」または「当期純損失」として表示されています。
    • 変換のポイント
      • この金額は、原則としてそのまま建設業財務諸表の「利益剰余金」の変動項目として転記されます。
      • なぜ重要?: 当期純利益(損失)は、会社の経営成績の最終結果であり、直接的に利益剰余金を増減させます。利益剰余金は、経審のY点(経営状況)の重要な評価項目の一つであるため、正確な転記が求められます。
  • ② 「剰余金の配当」の確認
    • 税務申告用での表示: 「剰余金の配当」または「配当金」として表示されています。
    • 変換のポイント
      • これも原則としてそのまま建設業財務諸表の「利益剰余金」の変動項目として転記されます。
      • なぜ重要?: 会社がどれだけ利益を株主へ還元し、どれくらい内部に留保したかを示す項目です。過度な配当は利益剰余金の積立を阻害し、経審のY点評価に影響を与える可能性があります。
  • ③ 「自己株式」の取得・処分
    • 税務申告用での表示: 「自己株式の取得」や「自己株式の処分」として表示されています。
    • 変換のポイント
      • 原則としてそのまま建設業財務諸表の「自己株式」の変動項目として転記されます。
      • なぜ重要?: 自己株式の取得は純資産を減少させるため、自己資本比率の低下に繋がる可能性があります。経審のY点評価に影響を及ぼす場合があるため、その変動を正しく表示することが重要です。
  • ④ 「資本金」「資本剰余金」の変動
    • 税務申告用での表示: 増資や減資、その他資本取引による変動が表示されています。
    • 変換のポイント
      • これらの変動も、原則としてそのまま建設業財務諸表の対応する項目に転記されます。
      • 特に、役員借入金を資本金に振り替える「デット・エクイティ・スワップ(DES)」を行った場合は、その事実と金額が「資本金」の増加として正確に表示されているかを確認し、必要に応じて詳細を追記します。
      • なぜ重要?: 資本金の増減は、会社の「財産的基礎」や「自己資本比率」に直結するため、建設業許可の維持や経審のY点評価に非常に大きく影響します。正確な計上が不可欠です。
  • ⑤ 「その他有価証券評価差額金」等の確認
    • 税務申告用での表示: 「その他有価証券評価差額金」など、評価・換算差額に関する項目が表示されています。
    • 変換のポイント
      • こちらも原則としてそのまま転記されますが、金額が大きく変動している場合は、その原因(市場価格の変動など)を把握しておくことが望ましいです。

ステップ3:建設業財務諸表のフォーマットに転記する

  • 最後に、国土交通省令で定められた建設業財務諸表の専用フォーマット(「株主資本等変動計算書(建設業財務諸表)」など)に、上記の分類・調整した金額を正確に転記していきます。
    • 各項目が、期首残高 → 変動事由(当期純利益、配当、増資など) → 期末残高という流れで正しく表示されているかを確認します。
    • 特に、期末残高が貸借対照表の純資産の部と一致することを確認しましょう。

もし、税務申告書に株主資本等変動計算書がない場合でも大丈夫!

「うちの会社は小規模だから、税務申告書に株主資本等変動計算書を添付していないよ」という建設業者さんもいらっしゃるかもしれません。

そのような場合でも、以下の手順にて作成することができます。

  1. 前期の決算書または建設業財務諸表を参照し、各項目を当期首残高に記載します。
  2. 当期の貸借対照表から、当期末残高を記載します。
  3. 当期首残高と当期末残高の差額を、当期変動額合計の行に記載します。
    • 評価・換算差額等と新株予約権の部分は、株主資本以外の項目の当期変動額の行に記載します。
    • 株主資本の部分は、損益計算書から「当期純利益」の行に記載します。
  4. まだ差額がある場合は、増資や配当や積立金などの振替があるので、各項目を確認して変動している項目を埋めていきます。
  5. 最後に各合計欄を計算して、埋めていきます。

株主資本等変動計算書』の書き方例

『株主資本等変動計算書』の書き方例は、以下のようになります。

株主資本等変動計算書の記載例
  1. 株主資本
    • 資本金 → 会社設立時に発行された株式の額です。
    • 新株式申込証拠金 → 新しい株式を発行する際に、その株式を申し込む人が、あらかじめ支払うお金のことです。払込期日を迎えていないため、資本金とは区別します。
    • 資本剰余金
      • 資本準備金 → 会社が将来に備えるために積み立てる資金です。資本金の2分の1を超えない額まで計上することができます。
      • その他資本剰余金 → その他の要因による資本剰余金(例えば、評価差額など)です。
    • 利益剰余金
      • 利益準備金 → 会社が得た利益の一部を、将来に備えて積み立てておくための資金のことです。
        会社法により、配当により減少する剰余金の額10%を資本準備金または利益準備金として計上することを義務付けされています。
      • その他利益剰余金
        • ××積立金 → 株主総会や取締役会の決議により、会社が任意に設定する準備や積立金です。
        • 繰越利益剰余金 → 企業が過去に得た利益のうち、配当やその他の目的で支出されずに残っているお金のことです。
    • 自己株式 → 会社が保有する自社の発行済み株式です。
  2. 評価・換算差額等
    • その他有価証券評価差額金 → 「売買目的有価証券」「満期保有目的の債券」「子会社株式及び関連会社株式」のいずれににも分類されない「その他有価証券」について、時価により評価替えすることにより生じた評価損益から税効果相当額を控除した残額です。
    • 繰延ヘッジ損益 → デリバティブ取引など、取得価額と時価評価の差額を翌期以降に繰り延べるときに記載します。
      ※デリバティブ取引とは、株式や為替、商品など、原資産と呼ばれるものの価格変動に連動して、その価値が変動する金融派生商品を売買する取引のことです。
    • 土地再評価差額金 → 企業が所有する土地の時価が、帳簿に記載されている取得時の価格と大きく乖離している場合に、その差額を計上するためのものです。
  3. 新株予約権 → 企業が発行する一種の権利証で、将来に企業の株式を一定の価格で買う権利のことです。株式を購入するための「予約券」のようなものです。

貸借対照表は確かに会社の重要な情報源ですが、それだけでは見えない「純資産の動き」や「変動の理由」を詳細に教えてくれるのが、株主資本等変動計算書です。

この書類を読み解くことで、皆さんの会社の「資金調達の健全性」や「利益の蓄積状況」、「株主還元の方針」といった、より深い経営情報が明らかになります。

これは、会社の財務体質を強化し、公共工事の受注拡大金融機関からの信用力向上、ひいては会社の安定した成長と発展に向けた「未来の経営戦略」をデザインする上で、欠かせない情報となります。

この情報が、あなたの事業の発展に少しでも貢献できれば幸いです。