建設業の「一括下請け(まる投げ)」についての解説。
建設業の「一括下請け(まる投げ)」とは、元請負人が発注者から請け負った建設工事の全部またはその主たる部分を、自らは実質的に関与せず、そのまま他の下請負人に請け負わせる行為です。
建設業法第22条で原則として一括下請けが禁止されています。
この記事では一括下請け(まる投げ)」を、建設業者様のために説明しています。
1.一括下請けが禁止されている理由
建設業の「一括下請け(まる投げ)」が禁止されている理由は、単に法律で定められているからというだけでなく、建設工事の特性や、関係者の利益、ひいては社会全体の安全・品質に関わる重要な問題だからです。
主な理由は次の通りです。
- 発注者の信頼を裏切る行為となるため
- 信頼関係の毀損
発注者は、特定の建設業者(元請負人)の技術力、実績、信用、担当者の人柄などを総合的に評価し、信頼して工事を依頼します。
しかし、元請負人がその工事を自ら実質的に行わず、全てまたは大部分を別の下請負人に丸投げしてしまうと、発注者の期待や信頼が裏切られることになります。
発注者からすれば、契約した相手ではない、知らない業者が工事を行うことになり、不信感を抱くのは当然です。 - 契約の趣旨の無視
建設工事の請負契約は、特定の業者が特定の工事を責任をもって完成させるという契約です。
一括下請けは、この契約の根本的な趣旨を無視する行為と言えます。
- 信頼関係の毀損
- 施工責任が曖昧になり、品質・安全性の低下を招くため
- 責任の不明確化
元請負人が工事に実質的に関与しない場合、工事全体の進捗管理、品質管理、安全管理が疎かになる傾向があります。
問題が発生した際に、元請負人と下請負人の間で責任の所在が不明確になり、「たらい回し」になるリスクが高まります。 - 手抜き工事の誘発
元請負人が中間マージンだけを取り、実質的な工事に関与しない場合、下請負人はその分、利益を圧縮されて工事を請け負うことになります。
これにより、下請負人が適正な工事を行うための費用や人員を確保できず、手抜き工事や資材の品質低下につながる可能性があります。 - 労働条件の悪化
不当な中間搾取により、末端の下請負人やそこで働く作業員の労働条件が悪化し、安全管理体制の不備や、技術力の低下を招くことも懸念されます。
これは、建設現場全体の安全性を脅かすことにつながります。
- 責任の不明確化
- 中間搾取の温床となり、不良業者の参入を招くため
- 不当なマージンの発生
一括下請けは、元請負人が何の付加価値も提供せずに、単に工事を横流しするだけで中間マージンを得ることを可能にします。
これは、実質的に工事を行う下請負人の利益を不当に圧迫し、健全な競争を阻害します。 - 「商業ブローカー的業者」の排除
施工能力や技術力がないにもかかわらず、単に発注者と下請負人の間を仲介するだけで利益を得ようとする「商業ブローカー的業者」が建設業界に蔓延することを防ぐ目的があります。
このような業者が増えると、建設業界全体の信頼性や質が低下し、健全な発展が阻害されます。 - 多重下請構造の弊害助長
建設業界では多重下請構造が一般的ですが、一括下請けが容認されると、この多重構造がさらに複雑化・不透明化し、前述の責任不明確化や中間搾取の問題を助長することになります。
- 不当なマージンの発生
- 建設業の健全な発展を阻害するため
- 技術力の低下
元請負人が自ら施工を行わない場合、その会社に技術やノウハウが蓄積されず、技術力の向上が図れません。
これは長期的に見て、日本の建設技術全体のレベル低下につながる恐れがあります。 - 公正な競争環境の阻害
施工能力のない業者が安易に工事を受注し、それを丸投げすることで、真面目に技術を磨き、品質の高い工事を提供している業者が不利になる可能性があります。
これは、業界全体の公正な競争環境を阻害します。
- 技術力の低下
建設業法第22条に規定されている一括下請け(丸投げ)の禁止に違反した場合、主に行政処分が科されます。
刑事罰が直接的に規定されているわけではありませんが、行政処分によって建設業の事業継続が困難になるなど、非常に重いペナルティとなります。
具体的には、以下の行政処分が考えられます。
- 営業停止処分
一括下請けを行った元請負人だけでなく、一括して工事を請け負った下請負人も処分の対象となります。
営業停止期間中は、新たな工事の請負契約を締結したり、既存の工事を施工したりすることができなくなり、事業に甚大な影響が出ます。 - 指示処分
営業停止処分よりも軽微な違反の場合や、初めての違反で情状酌量の余地がある場合などに、指示処分が下されることがあります。
指示処分に従わない場合、営業停止処分へと移行する可能性があります。 - 建設業許可の取り消し
違反の情状が特に重い場合や、営業停止処分を受けても改善が見られない場合、度重なる違反があった場合などには、建設業許可の取り消しという最も重い処分が下される可能性があります。
許可を取り消された場合、建設業を営むことができなくなります。
また、許可取消しから最低5年間は、新たに建設業許可を取得することができません。

一括下請けは、発注者との信頼関係を損ない、工事の品質や安全性の低下を招くなど、建設業界の健全な発展を阻害する重大な違反行為と位置づけられているよ。
2.一括下請けと判断されるケース
建設業法における「一括下請け」は、元請負人が請け負った建設工事の「全部またはその主たる部分」を、自らは実質的に関与せず、他の下請負人に丸投げする行為です。
ここでいう「実質的に関与」しているかどうかが判断の重要なポイントとなります。
これは単に現場に顔を出すとか、名義だけを貸すといったことではなく、工事全体の責任を負い、その進行を積極的に管理・指導している状態を指します。
具体的には、以下の要素を元請負人が適切に、かつ継続的に行っていることを意味します。
- 施工計画の策定・確認
工事全体の基本的な施工計画(工法、工程、品質管理、安全管理など)を自ら作成するか、下請負人が作成したものを詳細に確認し、適切に指導・承認すること。
計画段階から元請が主体的に関わることで、工事全体の方向性を決定し、品質や安全性の基盤を築きます。 - 工事全体の工程管理
工事の進捗状況を定期的に確認し、遅延が発生しないよう下請負人への指示、調整、人員・資材の手配などを適切に行うこと。
複数の下請負人が関わる場合は、それらの調整役も担います。
工程が適切に管理されないと、工事の遅延やコスト増加につながり、最終的に発注者に迷惑がかかります。 - 品質管理
使用される材料の選定・検査、施工状況の確認(寸法、強度、仕上がりなど)、各種試験の実施・確認などを通じて、契約通りの品質が確保されているかを継続的にチェックし、必要に応じて是正指示を出すこと。
建築物の安全性や耐久性、機能性を確保するために最も重要な要素の一つであり、元請の責任が重く問われる部分です。 - 安全管理
現場の危険要因を特定し、安全対策(足場の設置、保護具の使用、危険作業の監視など)を計画・実施・徹底させること。
下請負人を含む全ての作業員の安全教育や巡視も含まれます。
作業員の命に関わるため、最も厳格な管理が求められます。 - 技術的指導・調整
施工上の問題点や困難が生じた際に、下請負人に対して適切な技術的な助言や指導を行うこと。
また、設計変更や仕様変更が生じた場合に、下請負人や発注者との間で技術的な調整を行うこと。
専門的な知識と経験に基づいた指導は、工事の円滑な進行と品質確保に不可欠です。 - 主任技術者または監理技術者の適正な配置と職務遂行
建設業法に基づき、資格を有する技術者(主任技術者または監理技術者)を工事現場に配置し、その技術者が上記1~5の職務を実質的に遂行していること。
形式的な配置や、名義貸しは「実質的な関与」とは認められません。
「実質的に関与」しないと判断される典型例
- 現場にほとんど行かない、または形式的にしか顔を出さない。
- 下請負人に全ての判断と指示を丸投げしている。
- 書類上は元請が作成していることになっているが、実態は下請負人が作成し、元請は確認していない。
- 資材調達のみを行い、現場の施工管理は下請に任せている。
- 現場代理人や主任技術者が別の現場を兼任しており、当該現場での職務を十分に遂行できていない。
つまり、「実質的に関与」とは、単に契約書を交わすだけでなく、元請負人がその工事の「責任者」として、企画から完成までの全ての段階において、具体的な指揮・監督・管理を行い、発注者に対する最終的な責任を全うする姿勢と行動を指します。
一括下請けと判断される可能性が高い5つのケース
- 請け負った工事の全部を丸投げするケース
元請A社が発注者からオフィスビルの内装改修工事を一式で請け負ったが、A社は自社の作業員を一切投入せず、全ての工程(解体、間仕切り、床・壁・天井仕上げ、電気、設備など)をB社に一括して下請けに出し、A社は現場にほとんど顔を出さない、あるいは形式的に現場代理人を置いているだけで実質的な施工管理を行わない。
判断のポイント
元請が実質的に施工に全く関与せず、請け負った工事全体をそのまま他の業者に横流ししている場合。
中間搾取の有無は関係なく、たとえ利益を得ていなくても一括下請けと判断されます。
- 工事の主たる部分を丸投げし、ごく一部のみを自社で施工するケース
元請A社が戸建住宅の新築工事を一式で請け負った。
しかし、B社は基礎工事、躯体工事、屋根工事、外壁工事といった主要な構造部分の全てをC社に下請けに出し、B社は玄関の建具取り付けや簡単な内装仕上げ(例えば、棚の設置のみ)といったごく一部の軽微な作業しか自社で行わない。
判断のポイント
工事全体の中で、その建物の機能や安全性に大きく関わる「主たる部分」を実質的に他の業者に任せ、自社が行う作業がごくわずかで、工事全体を統括・管理する役割を果たしていない。
- 独立して機能する工作物の工事を一括して丸投げするケース
元請A社が、大規模な工場敷地内の複数の独立した建物の新築工事を一括で請け負った。
B社は、そのうちの1棟(例えば、特定の製造ラインを設置する建屋)の建設工事を、他の建屋の工事とは切り離して、C社に丸ごと下請けに出し、B社はC社が行うその1棟の工事には実質的に関与しない。
判断のポイント
多数の工事を一括で請け負った場合でも、その中の一部分が他の部分から独立して機能を発揮する工作物(例えば、独立した建物や橋梁など)の工事であり、その部分を自社で施工管理せず、一括で下請けに出す場合。
- 資材の提供のみで施工管理を行わないケース
元請A社が道路舗装工事を請け負ったが、A社はアスファルト等の資材を調達して現場に搬入するだけで、実際の舗装作業(路盤工、舗装工など)は全てB社に下請けに出し、A社は現場での施工管理や工程管理、品質管理などをB社に完全に任せきりにしている。
判断のポイント
資材の調達は元請の役割の一部ではあるものの、それだけで「実質的な関与」とは認められません。
現場での施工計画、工程管理、品質管理、安全管理、技術指導といった中核的な管理業務を元請が行っていない場合、一括下請けと判断されます。
- 現場に技術者を配置するが、実質的な職務を遂行させないケース
元請A社がマンションの大規模修繕工事を請け負い、形式的に主任技術者を現場に配置している。
しかし、その主任技術者は別の現場を兼任しており、当該現場にはほとんど常駐せず、具体的な施工計画の指示、下請業者間の調整、品質チェック、安全パトロールなどの職務を実質的に遂行せず、現場の管理はB社(下請負人)に任せきりになっている。
判断のポイント
単に技術者を現場に配置するだけでなく、その技術者が「実質的に」施工管理業務(施工計画の作成・確認、工程管理、品質管理、安全管理、技術的指導など)を遂行している必要があります。
義貸しや形式的な配置では、一括下請けと判断されます。

これらのケースに共通するのは、元請負人が請け負った工事に対して、責任ある立場で実質的な施工管理を行っていないという点です。
3.一括下請けの例外規定
建設業法では原則として一括下請け(丸投げ)を禁止していますが、建設業法第22条第3項にその例外が規定されています。
この例外は、以下の2つの条件を両方満たす場合にのみ適用されます。
- 「多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの」以外の建設工事であること。
これは、一部の特定の工事については、発注者の承諾があっても一括下請けが一切認められないことを意味します。
建設業法施行令第6条の3で、この「政令で定めるもの」が具体的に規定されています。- 共同住宅を新築する建設工事
つまり、マンションやアパートなどの共同住宅の新築工事については、発注者の承諾があっても一括下請けは全面的に禁止されています。
これは、多数の居住者の安全や生活に直結する重要な施設であるため、より厳格な規制が設けられているためです。
「新築」工事が対象であり、改修工事や増築工事は含まれません。
「長屋」は共同住宅には含まれません。- 例外が認められる工事の例
- 戸建住宅の新築工事
- 店舗や事務所ビル、工場などの新築・改修工事(共同住宅以外のもの)
- 土木工事全般(道路、橋梁、トンネルなど)
- 共同住宅の改修工事(増築、改修、リフォームなど)
- 例外が認められる工事の例
- 共同住宅を新築する建設工事
- 当該建設工事の元請負人が、あらかじめ発注者の「書面による承諾」を得ていること。
上記の特定の工事(共同住宅の新築工事など)以外であれば、元請負人が発注者から事前に書面で承諾を得ることで、例外的に一括下請けが認められます。- 「あらかじめ」の承諾
工事を一括下請けに出す前に、必ず発注者から承諾を得る必要があります。
事後承諾は認められません。 - 「書面による」承諾
口頭での承諾では認められません。
書面(紙の書類や、最近では情報通信技術を利用した電磁的記録も認められる)で承諾を得ておく必要があります。 - 「発注者」からの承諾
承諾を受ける相手は、常に当該工事の最初の「発注者」です。
元請負人が下請負人に工事を丸投げする場合だけでなく、下請負人がさらに再下請負人に丸投げする場合であっても、承諾を得る相手は最終的な発注者であり、元請負人ではありません。
- 「あらかじめ」の承諾
例外が認められた場合でも注意すべき点
発注者の承諾を得て一括下請けが合法的に行われたとしても、元請負人の責任が全て免除されるわけではありません。
- 主任技術者・監理技術者の配置義務
例外規定が適用された場合でも、元請負人には建設業法で定められた主任技術者または監理技術者の配置義務があります。
その技術者は、現場に適切に配置され、実質的な施工管理業務(工程管理、品質管理、安全管理など)を遂行している必要があります。
単なる名義貸しや形式的な配置では、法的に認められた一括下請けとはみなされません。 - 最終的な責任
例外規定が適用されたとしても、発注者に対する工事完成の最終的な責任は元請負人にあります。
下請負人が起こした問題についても、元請負人は責任を負うことになります。 - 経営事項審査への影響
一括下請けを行った工事は、元請負人が実質的に関与した工事とは認められないため、経営事項審査における完成工事高に計上できない場合があります。
これは、公共工事の入札参加資格などに影響を与える可能性があります。

一括下請けの例外は、非常に限定的な状況下でしか認められず、たとえ例外が適用されたとしても、元請負人には重い責任と義務が課せられることを理解しておきましょう。