建設業許可が必要かどうかの判断基準。
建設業を営むには、原則として「建設業許可」が必要です。
しかし、全ての建設工事に許可が必要なわけではなく、「軽微な建設工事」のみを請け負う場合は許可が不要とされています。
この判断基準は、自社が請け負う工事を確認し、必要な建設業許可の種類を判断することになります。
この記事では「建設業許可が必要かどうか」を、建設業者様のために説明しています。
目次
1.建設業許可が必要かどうかの判断基準
建設業許可が必要かどうかの判断基準は、以下のように考えることができます。
許可が不要な「軽微な建設工事」とは?
建設業法第3条第1項ただし書および建設業法施行令第1条の2で定められており、具体的には以下のいずれかの条件を満たす工事です。
- 建築一式工事の場合
- 1件の請負代金の額が1,500万円(消費税込み)に満たない工事 または
- 延べ面積が150平方メートルに満たない木造住宅を建設する工事
※「木造」とは主要構造部が木造であるもの
※「住宅」とは、住宅、共同住宅及び店舗等との併用住宅で、延べ面積の2分の1以上を居住の用に供するもの
- 建築一式工事以外の建設工事の場合
- 1件の請負代金の額が500万円(消費税込み)に満たない工事
- 【注意点】請負代金の額の算定
- 消費税込みの金額で判断します。
- 材料費も含む:発注者から材料を無償で提供される場合でも、その材料の市場価格と運送費を請負代金の額に含めて判断します。
- 分割契約の場合:一つの工事を建設業許可を免れる目的で複数に分割して契約した場合でも、合算した金額で判断されます。
正当な理由があって分割されたと証明できない限り、原則として合計額で判断されるため注意が必要です。 - 付帯工事:ある建設工事の完成に必要な他の建設工事を請け負う「付帯工事」は、元々の主たる工事の許可があれば、その許可業種に含まれない工事でも請け負うことができます(別途許可は不要)。
付帯工事とは?
これは、原則として29種類ある建設業の許可を受けた業種以外の工事は請け負えないというルールに対し、例外的に、許可を受けた業種の工事に付随して他の業種の工事も請け負うことを認めるものです。
単に「付随する工事」であれば何でも付帯工事として認められるわけではありません。
国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」において、付帯工事の具体的な判断基準が示されています。
以下の2つのいずれかに該当し、かつ「それ自体が独立の使用目的に供されるものではないもの」である必要があります。
- 主たる建設工事を施工するために必要を生じた他の従たる建設工事
メインの工事を行うために、どうしても発生してしまう副次的な工事を指します。 - 主たる建設工事の施工により必要を生じた他の従たる建設工事
メインの工事が完了した結果として、後続的に発生する副次的な工事を指します。
これらの判断には「建設工事の注文者の利便、建設工事の請負契約の慣行等を基準とし、当該建設工事の準備、実施、仕上げ等に当たり一連又は一体の工事として施工することが必要又は相当と認められるか否かを総合的に検討する」とされています。
簡単にまとめると、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 主たる工事の目的を達成するために必要不可欠な工事であること
- 主たる工事と一連・一体として施工することが合理的であること
- 従たる工事(付帯工事)自体が独立した使用目的を持たないこと
付帯工事の具体例
- 電気工事業者がエアコン設置工事(電気工事)を請け負った際、壁に穴を開けたり(大工工事)、壁の仕上げを補修したりする工事(内装仕上工事)。
メインは電気工事であり、それを行うために付随して大工工事や内装仕上工事が発生しています。 - 管工事業者が給排水設備の設置工事(管工事)を行う際、床や壁を解体したり(とび・土工工事業)、その後に復旧したりする工事(内装仕上工事、左官工事など)。
メインは管工事であり、そのために付随して解体や復旧工事が発生しています。 - 屋根工事業者が屋根の修繕工事(屋根工事)を行う際、足場の設置(とび・土工工事業)や、それに伴う塗装工事(塗装工事)。
メインは屋根工事であり、安全確保のための足場や、補修後の塗装が付随工事となります。 - 機械器具設置工事業者が機械の設置(機械器具設置工事)を行う際、機械の電源工事(電気工事)や燃料配管工事(管工事)。
メインは機械設置であり、その機械を稼働させるために電気や配管工事が付随します。
付帯工事に関する注意点
- 金額の制限
付帯工事の請負代金は、原則として主たる工事の請負代金を上回ることはありません。
もし付帯工事の金額が主たる工事を上回る、あるいは匹敵するような場合は、どちらが主たる工事なのか曖昧になり、付帯工事とは認められない可能性が高くなります。 - 軽微な工事のルールとの関係
付帯工事の金額が500万円以上(建築一式工事の場合は1,500万円以上)であっても、主たる工事の建設業許可があれば、別途その付帯工事の許可は不要です。
これは、軽微な工事のルール(500万円未満は許可不要)とは異なる、付帯工事特有の例外です。 - 専門技術者の配置義務
付帯工事の請負代金が500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)となる場合は、その付帯工事に対応する「専門技術者」を現場に配置する義務があります。
この専門技術者は、主たる工事の主任技術者・監理技術者がその専門技術者の要件を満たしていれば兼任することも可能です。 - 実務経験への算入不可
建設業許可を取得する際の実務経験を証明するにあたり、付帯工事の経験は、原則としてその業種の実務経験として算入することはできません。
あくまで主たる工事の経験が対象となります。 - 判断の難しさ
付帯工事に該当するかどうかは、個別のケースによって判断が難しい場合があります。
特に複数の業種が複雑に絡み合う工事では、行政庁(国土交通省や都道府県)の判断も異なることがあるため、疑義がある場合は事前に確認することが望ましいです。

付帯工事の規定は、建設工事の円滑な実施と、発注者の利便性を図るために設けられた特例なのだ。
2.建設業許可取得のメリットとデメリット
建設業許可の取得は、事業の拡大や安定化を目指す建設業者にとって重要なステップですが、一方で様々な義務やコストも発生します。
建設業許可取得のメリット
- 請け負える工事の範囲が大幅に広がる
これが最大のメリットです。
建設業許可を持たない事業者が請け負えるのは「軽微な建設工事」(建築一式工事で1,500万円未満または延べ床面積150㎡未満の木造住宅、その他の工事で500万円未満)に限られます。
許可を取得することで、これらの金額制限を超える大規模な工事を請け負うことが可能になり、売上や利益の大幅な増加につながります。
- 対外的な信用力の向上
建設業許可の取得には、経営業務管理責任者(実務経験)、営業所技術者等(資格・実務経験)、財産的基礎(資金力)、誠実性など、厳しい要件をクリアする必要があります。
許可を受けていることは、これらの要件を満たしていることの証明であり、国や都道府県から「一定の基準を満たした健全な事業者」として認められていることを意味します。
これにより、元請業者、発注者、金融機関からの信用度が向上し、新規顧客の獲得や融資の審査に有利に働きます。
特に、許可を条件とする大手企業との取引や公共工事の受注機会が増えます。
- 公共工事の入札参加が可能になる
国や地方公共団体が発注する公共工事は、原則として建設業許可を取得している事業者が「経営事項審査」を受け、「入札参加資格」を取得することで参加できます。
公共工事は安定した受注が見込め、かつ大規模な工事が多いことから、事業の基盤強化に大きく寄与します。
- 元請業者からの信頼と受注機会の増加
元請業者は、下請業者を選定する際に、トラブル回避やコンプライアンスの観点から、建設業許可の有無を重視する傾向があります。
許可を持っていることで、信頼できる下請業者として選ばれやすくなり、安定的な受注につながります。
- 融資や補助金を受けやすくなる
金融機関は、融資の判断材料として企業の信用力を重視します。
建設業許可は、企業の安定性や健全性を示す一つの指標となるため、融資を受けやすくなる傾向があります。
また、一部の補助金や助成金の申請要件に建設業許可が必須とされている場合もあります。
- 社内のコンプライアンス意識の向上
許可取得の過程で、建設業法や関連法規に関する知識が深まり、社内でのコンプライアンス意識が高まります。
これは、将来的なトラブルや行政処分を未然に防ぐことにもつながります。
建設業許可取得のデメリット
- 許可取得までの費用と時間・手間がかかる
- 新規申請の場合、大臣許可で15万円、知事許可で9万円の申請手数料が必要です。
- 会社の定款、役員名簿、納税証明書、財務諸表、技術者の資格・実務経験証明書など、膨大な書類の準備が必要です。
これらの書類収集や作成には時間と手間がかかります。 - 資金力や技術者要件を満たすために、資金の準備や人材の確保が必要になる場合があります。
- 許可取得後の維持コストと事務負担
- 建設業許可の有効期間は5年間であり、5年ごとに更新手続きが必要です。
更新にも大臣許可で5万円、知事許可で5万円の手数料がかかります。 - 毎事業年度終了後4ヶ月以内に、工事実績、財務諸表、技術者の状況などを記載した「決算変更届」を提出する義務があります。
- 役員の変更、本店の移転、商号の変更など、申請内容に重要な変更があった場合は、その都度変更届を提出する必要があります。
- 営業所技術者等は常に在籍している必要があり、退職した場合は代わりの技術者を速やかに確保し、変更届を提出しなければ、許可取り消しとなるリスクがあります。
- 建設業許可の有効期間は5年間であり、5年ごとに更新手続きが必要です。

建設業許可の取得は、長期的な視点で見ると、請け負える工事の範囲が広がり、信用力が向上し、事業の発展・拡大に不可欠な要素となるよね。
3.建設業許可がないときに、必要な工事を依頼されたら
建設業許可がない事業者が請け負える工事は「軽微な建設工事」に限定されます。
それ以上の工事を請け負うことは、建設業法違反となります。
依頼された場合の対応
- 許可取得を検討
今後も同様の工事を請け負う可能性があるなら、建設業許可の取得を検討し、依頼主には許可取得後に改めて契約する旨を伝えましょう。 - 請負を辞退する
許可がない状態で請け負うことは違法行為となるため、毅然として断りましょう。 - 許可を持つ業者に紹介する
依頼主のニーズに応えるため、提携している許可を持つ業者を紹介するなどの対応も考えられます。
罰則について
建設業許可がないにもかかわらず、上記の「軽微な建設工事」の範囲を超える工事を請け負った場合、建設業法違反となり、非常に重い罰則が科せられます。
- 刑事罰
- 3年以下の懲役または300万円以下の罰金(または両方)
建設業法の中で最も重い部類に入る罰則です。
悪質な場合や、無許可営業を繰り返し行った場合は、懲役刑と罰金刑が併科されることもあります。
法人の場合は、行為者(代表者や担当者)だけでなく、法人そのものに対しても1億円以下の罰金が科される可能性があります。
- 3年以下の懲役または300万円以下の罰金(または両方)
- 行政処分(将来的な影響)
すぐに刑事罰を受けなくても、違反が発覚した場合には以下の行政処分を受ける可能性があります。- 建設業許可の取得が5年間不可能になる
建設業法違反による懲役刑または罰金刑を受けた場合、その刑の執行が終わった日またはその執行を受けることがなくなった日から5年間は、建設業許可の欠格要件に該当し、新たに許可を取得することができません。
これは、事実上、その期間は軽微な工事しか請け負えず、事業の拡大が著しく困難になることを意味します。 - 社会的な信用の失墜
違法行為として公になることで、企業や個人の信用が大きく損なわれます。
金融機関からの融資が困難になったり、取引先から敬遠されたりする可能性が高まります。
- 建設業許可の取得が5年間不可能になる
- 無許可業者への発注者(元請)への罰則
- 発注者(元請)が、無許可業者であることを知りながら、あえて軽微な建設工事の範囲を超える工事を発注した場合も、建設業法違反に問われる可能性があります。
この場合、発注者(元請)も1年以内の営業停止処分などの行政処分の対象となることがあります(建設業法第28条第1項)。
- 発注者(元請)が、無許可業者であることを知りながら、あえて軽微な建設工事の範囲を超える工事を発注した場合も、建設業法違反に問われる可能性があります。

目先の利益に囚われず、法令遵守を徹底することが事業の安定的な継続と発展には不可欠です。
もし許可の要件を満たし、より大きな工事を請け負いたい場合は、正規の手続きで許可を取得することが賢明ですね。
ちょっと古い情報の動画ですが、参考としてYoutube動画をアップしています。